裸のムラ

　これは、「はりぼて」の共同監督・五百旗頭幸男が、石川テレビ放送で制作したドキュメンタリー番組「裸のムラ」、「日本国男村」を基にした劇場版ドキュメンタリー。
　
　石川県知事の谷本正憲は現職最長である７期２７年目を迎える。長すぎる権力集中の為、仕える者は忖度の度合いを強め、為政者は傍若無人になっていく……
　カメラは市井の生活者にも向けられ、同調圧力の強い社会で暮らすムスリム一家や、車で移動しながら生活や仕事をするバンライファーの家族を取材。
　私たちが暮らす社会に偏在する家父長制（パターナリズム）と、それが生み出す、ローカルルールと忖度が横行する”ムラ社会”を描いていく……

　五百旗頭幸男は、「はりぼて」の製作後、「組織ジャーナリズム」の限界から富山・チューリップテレビを辞職、石川テレビ放送に転職後に手掛けた番組を再編集したのが、この映画になります。
　富山市議会の政務活動費不正を追った「はりぼて」は、その内容や取材のやり方も、かなりエグいものがありましたが、本作では政治に対しての踏み込みは抑え、地方政治に限らず、日本の根強く残る家父長制が生み出す様々な事象を捉えるものとなっています。

　五百旗頭監督は相変わらず目の付け所がよく、県議会の谷本知事席に置かれる氷入りのお茶、そのボトルについた結露水を係りの女性が丁寧に拭く……そうした無意味な仕事や、知事当選後の記者会見で質疑の記者が何れも「当選おめでとうございます」から入る異様さなど、日本社会では見過ごされそうな、支配するものの傍若無人ぶりと、周囲の忖度にあらためて気づかされるシーンをこまめに拾い上げています。
　また、自由な暮らしを求めて車上生活する家族の父親が娘に対して高圧的に振る舞う事、ムスリム一家では、イスラム教では守られるべきものとされる一家の母が、日本社会の不寛容さを訴えながら、夫や子供たちに対して不寛容で高圧的な態度をとる……などなど、思わず考えさせられる描写も多くあります。
　ただ、ユーモアと鋭いツッコミのバランスがよく、面白く観られた「はりぼて」に対し、本作は取材対象や内容を広げた事で、いささか散漫な印象を与えるものになったのは残念な所ではないでしょうか。　　　
　

　（２０２２年　１０月２２日　シネマジャック＆ベティにて）

（作品データ）

　■監督

五百旗頭幸男

　■出演

　■コピー

どこもかしこも嗚呼、バターナリズム？！

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