夜明けまで
バス停で　

　これは、「痛くない死に方」の高橋伴明監督が、ホームレス女性撲殺事件をモチーフに、コロナ禍が招いた貧困・社会的孤立を描いた社会派ドラマ。

　北林三知子は、別れた夫の借金返済の為、昼はアトリエで自作のアクセサリーを売り、夜は居酒屋に住み込みのパートとして働いていた。
　しかし、コロナ禍の影響で、居酒屋は休業。三知子は、人員整理の対象となって突如仕事と住処を失うことになり……

　主演は、久々の映画主演となる板谷由夏。実際に居酒屋でバイトをし、ホームレスとなって街を彷徨う場面では絶食して撮影に臨むなど、果敢な役作りをした、と言います。
　また、三浦貴大や柄本佑と言う若手人気俳優が、本作では憎まれ役を演じているのも注目でしょう。

　これは、2020年に起きたホームレス女性撲殺事件を元にしています――その、事件の背景となるホームレスとなる経緯を映画は丁寧に再現して行きます。この国では、些細な事で一気に奈落落ちする、と言う事は映画「東京難民」でも描かれた事ですが、そのセーフティネットの頼りなさには薄ら寒い思いにさせられるでしょう。
　そうやって、事実に基づく物語を組み上げ、現実通りの最悪の結末を観客に思わせておいて、映画は、最後の３分でそれをひっくり返すのです――確かに、事件通りの結果に至る道筋を幾度も描き、しつこく思える程に不安を煽っていたのは、この為だったか、と言う感じです。

　自分はテロリズムを容認するものではありません。しかし、弱者をないがしろにする日本社会において、社会を変える為、いや、不平不満を怒りに変えて権力者にぶつける、と言うのには共感してしまう部分があります。
　実際、この映画のエピローグには確かにカタルシスがあるのです。
　これに賛否はあるでしょう。
　しかし、それでもこれは映画です。やりきれない思いや、怒りをぶつけ、発散させる事が許されるものなのです。
　表現として、この映画の結末はありだろうと思います――しかし、現実に、山上容疑者が起こした事件により、このようなテロリズムの発露に「痛快！」と言えなくなってしまったのが残念でなりません。
　

　（年　月　日　にて）

（作品データ）

　■監督

高橋伴明

　■出演

北林三知子　・・・　板谷由夏

寺島千晴　・・・　大西礼芳

バクダン　・・・　柄本明

（その他のキャスト）
　三浦貴大　　松浦祐也　　ルビーモレノ　　片岡礼子　　土居志央梨　　あめくみちこ　　幕雄仁　　鈴木秀人　　長尾和宏　　福地展成　　小倉早貴
　柄本佑　　下元史朗　　筒井真理子　　根岸季衣　　山上賢治　　安部智凛　　高橋Ｋ太　　大山雄史　　榊原美鳳　　山岡純　　和田修昌

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どうしてこんなことに・・・

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