アプローズ、アプローズ！　囚人たちの大舞台

　これは、刑務所の文化活動で演技を教えることになった俳優が、囚人たちと共に、舞台劇「ゴドーを待ちながら」の外部公演を成功させた’８０年代のスウェーデンの実話をフランスで映画化したヒューマンドラマ。
　監督は、バイプレイヤー俳優でもあるエマニュエル・クールコル。

　囚人たちの文化活動として演技のワークショップ講師として招かれた、売れない俳優のエチエンヌ。彼は囚人らと過ごすうち、前任者のような寓話ではなく、本格的な劇を演じさせる事にしたいと考え、サミュエル・ベケットの「ゴドーを待ちながら」を演目と決める。
　最初は茶化すばかりで真面目に取り組まなかった囚人たちも、エチエンヌの情熱は次第に囚人たち、更に刑務所長の心も動かして、難関だった刑務所の外での公演に漕ぎ着ける。素人の囚人たちだが、エチエンヌの狙い通り、彼らの人生そのものを舞台に曝け出した芝居は、観客やメディアから予想外の高評価を受け、次々に出演依頼が舞い込んで……

　この映画、フランスで実際に運営されている刑務所で撮影したとのこと。あまり見る事のない、フランスの刑務所の様子は興味深いものがあります……特に、刑務所の建物までも美しくデザインしてしまい、殺風景なものとしていないのは、さすがフランス人、と思いました。

　映画は、１年余りの時間経過を描くのですが、これをテンポよく描いてダレる所がありません。
　演技経験がなく、教養も、文学的素養もない囚人たちが、演劇に取り組み、それが劇場で喝采を受けてしまうのは痛快でもあるし、ひとつの事を成し遂げる達成感もあって気持ちよく観られます。

　気になったのは、やはり最後の展開です。
　それが実話の通りだから仕方ないのですが、これを美談とさえ言えるように美しく描くのはどうしたものか、と思います。最後に思わぬ大舞台でひとり芝居を打つ事になったエチエンヌも、あれが晴れ舞台などではなく、裏切られた男の痛みと悔恨ではないのでしょうか？
　このラストには釈然としないものが残りました。　
　

　（２０２２年　８月１５日　シネマジャック＆ベティにて）

（作品データ）

　■監督

エマニュエル・クールコル

　■出演

エチエンヌ　・・・　カド・メラッド

（その他のキャスト）
　タヴィッド・アラヤ　　ラミネ・シソコ　　ソフィアン・カーム　　ピエール・ロッタン　　ワビレ・ナビエ　　アレクサンドル・メドヴェージェフ　　サイド・ベンシナファ
　マリナ・ハンズ　　ロラン・ストケル

　■コピー

舞台の上だけが、
俺たちの自由！

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