これは、「花様年華」、「恋する惑星」のウォン・カーウァイが製作総指揮、「バッド・ジーニアス　危険な天才たち」のバズ・プーンピリヤが監督した、恋と友情の物語。
　余命僅かな男が親友と共に、元の彼女たちに会いに行くロードムービーとなっています。ブーンビリヤ監督のオリジナル脚本で、若くして亡くなった親友に捧げる半自伝的な物語だと言います。
　タイトルの「プアン」はタイ語で「友」を意味するとのこと。

　ＮＹでバーを経営する青年ボスに、バンコクで暮らす友人のウードから久しぶりの電話が入る。ガンで余命僅かの宣告を受けたので、最期の頼みを聞いてほしいというのだ。
　バンコクに戻ったボスが頼まれたのは、元恋人たちを訪ねる旅の運転手。カーステレオから流れる思い出の曲が、二人がまだ親友だった頃の記憶を呼び覚まして……

　これは、スタイリッシュな青春ラブストーリー。
　ラジオＤＪをエアチェックしたカセットテープ。ＢＭＷのクーペ。バーとカクテル、ネオンに彩られた街……昭和世代には懐かしく、そして、これは紛れもないウォン・カーウァイの世界です。
　物語は、カセットテープをモチーフにした２部構成。寿命僅かな男が、元カノを巡るＡ面は、難病と最後の別れと言う重いテーマでありながらコミカルな演出が面白い……女優となった元カノ（「バッド・ジーニアス」のチュティモン・ジョンジャルーンスックジン――オークベーブ・チュティモンに改名していました）が、教会で二丁拳銃をぶっ放すと鳩が舞う、と言うシーンもあったりするのですから。

　タイ各地を巡りながら、別れの切なさを軽やかに見せる、この前半で観客を物語り世界にぐっと引き込むと、反転したＢ面はガラリと雰囲気を変えて来ます。
　金持ちのボンボンでプレイボーイと言う趣のボスの出自と、初恋ラブストーリーを美しく描くと、そこにウードが絡み、２人の関係と、言えなかった「嘘」を告白――物語としてはベタだし、ちょっと古風でもあるのだけど、そんな物語も、何故か、この舞台には相性がよく、気になりません。
　何処か現実的でないラストシークェンスには、監督の亡き友への想いも込められているのでしょうか？――薄暮に包まれたつかの間の幸福感と切なさ……それが心に残りました。

　かくも切なく美しく、そして格好のいい映画が作れるとは……タイの新世代映画恐るべし。
　それにしても、何故、日本はこうした格好のいい映画を作れないのだろうか？と嘆息するばかりです。　
　

　（２０２２年　８月　６日　Ｋｉｎｏシネマみなとみらいにて）

（作品データ）

　■監督・脚本

バズ・プーンピリヤ

　■出演

ボス　・・・　トー・タナポップ

ウード　・・・　アイス・ナッタラット

（その他のキャスト）
　
プローイ・ホーワン　　ヌン・シラパン　　ヴィオーレット・ウォーティア　　オークベープ・チュティモン

　■コピー

言えなかったことがあるんだ――

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