これは、「大怪獣のあとしまつ」が（良くも悪くも）話題となった三木聡監督による、ミステリアスコメディ。
　
　脚本家の加藤は、日々悶々と悩んでいた。同棲中の恋人、女優のジグザグの言動は一々気に触るし、その愛犬・ケルベロスに、書きかけの原稿を消去されてしまった加藤は、立腹の余りケルベロスを人里離れた荒れ地に捨ててしまう。
　後日、思い直してケルベロスを探しに行った加藤だが、ケルベロスは見つからず、荒れ地の中にポツンと立つコンビニエンス・ストア“リソーマート”を見つける。店番をしていたのは、怪しげな人妻の惠子で……

　「大怪獣のあとしまつ」にはがっかりさせられた三木聡監督ですが、その持ち味はオフビートなコメディにあります。これはそんな持ち味が存分に活かされたものになっています。
　映画評論家、マーク・シリングによる原案は、主人公が異世界に迷い込む、と言うものだったようですが、映画は現実と異界の狭間を曖昧にし、真実の所在を明らかにせずに展開します……奇妙な登場人物、素っ頓狂な設定の数々も、これではツッコミようがなく、この世界観に浸るしかありません。これぞ、三木聡監督ならでは、と言う感じ――それでも、無意味に揺れるカメラ、意図も繋がりも不明瞭なカットなど、苛々させられる箇所もなくはないのですが、これは面白く観られました。

　主人公の加藤を演じるのは成田凌。典型的な巻き込まれ型の主人公で、ハマリ役ではあるものの本作では狂言回しの役回り。この映画を支えているのは、恵子を演じた前田敦子。余分な説明抜きで、リソーマートが異界だと言う事を示す、違和感だらけの存在感を発しているのは大したもの。正に、主人公を異界に誘う妖艶なファム・ファタールを演じています――欲を言えば、これで脱ぐくらいの気合いが欲しかった所ですが……
　また、ジグザグを演じるのは、これまで地味で薄幸な役が多かった片山友希で、これは意外でした。

　変な理屈立てをせず、綺麗にまとめもせず、放り出したようなちょっと痛いオチもまずまず。
　これは、三木聡監督の持ち味が活かされた１本と言っていいのではないでしょうか。　
　

　（２０２２年　８月　５日　Ｔ−ＪＯＹ横浜にて）

（作品データ）

　■監督・脚本

三木聡

　■出演

加藤　・・・　成田凌
　
惠子　・・・　前田敦子

ジグザグ　・・・　片山友希

（その他のキャスト）
　六角精児　　岩松了　　渋川清彦　　ふせえり　　松浦祐也　　ＢＩＧＺＡＭ　　藤間爽子　　小田ゆりえ　　影山徹　　シャラ ラジマ

　■コピー

コンビニ発、
ちょっと異世界アドベンチャー！

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