ストーリー・オブ・フィルム
１１１の映画旅行

　これは、映画を取り巻く環境や手法が変化を見せた最近１０年に公開された映画１１１本を取り上げ、「映画言語の拡張」、「我々は何を探ってきたのか」という２部構成で検証していく異色のドキュメンタリー。
　監督は毎日欠かさず新たな映画を視聴し、これまで１６０００本以上を観たと言う映画オタクの英国人マーク・カズンズ。

　この映画、アメコミ映画として、史上初めてベネチア国際映画祭で金獅子賞を受賞した「ジョーカー」、スラム街で傷つきながらも生きる黒人少年を美しく描き、アカデミー賞で作品賞を受賞した「ムーンライト」、伝説的アクション映画「マッドマックス」、独特な美的センスでフランス映画界を代表するレオス・カラックス監督による「ホーリー・モーターズ」、Ａ２４が生んだ異色のホラー「ミッドサマー」と、幅広い作品を取り上げ、さらに、各テーマを設定し、日常の中の夢幻性、斬新な身体表現、独特の時間感覚、世界を捉える新しい視線、GoProやスマートフォンといった新世代カメラや、モーション・キャプチャーなどの最先端デジタル技術を導入した作品など、近年誕生した驚きの傑作の数々を、多岐にわたってマーク・カズンズ監督独自の視点で解説して行く……

　映画は、一見、縁のなさそうな、「ジョーカー」と「アナと雪の女王」の２本から“主人公の解放”と言う共通テーマを取り上げ、映画が如何に語るのか、から始まり、“動く写真”として始まった映画が、如何にして言葉や文字のように心を動かして行くのかを語って行きます――しかし、これは決して映画史ではなく、ここ１０年で監督の観た映画から感じた事を喋っているに過ぎません――でも、これは面白いです。

　実際、映画は、それそのものを観るのが面白いのだけでなく、映画について語り合うのもまた面白いのです。
　これは、一級の映画オタクであるカズンズ監督の映画語り……語り合う事が出来ないのは残念ですが、その代わり、豊富な映像と、膨大な引用はそれを補って余りあります。
　映画オタクの贅沢な映画語り……これは、映画好きならば、観て損のない１本だろうと思います。


ＰＳ
　カズンズ監督は、これまで１６０００本以上の映画を観た、と言います。自分もこれまでに４５００本以上は観て来たのですが、１１１本のうち、大半が観た事もない映画なのには参りました、
　自分の知る映画の世界が、まだまだ狭いものだ、と言う事を思い知らされた感じです。
　

　（２０２２年　７月２７日　シネマジャック＆ベティにて）

（作品データ）

　■監督・脚本

マーク・カズンズ

　■出演

ナレーション　・・・　マーク・カズンズ

　■コピー

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