LICORICE PIZZA
リコリス・ピザ

 これは、「ザ・マスター」、「インヒアレント・ヴァイス」のポール・トーマス・アンダーソン監督の最新作。

 1970年代のハリウッド近郊。子役として活躍していた高校生のゲイリー・ヴァレンタインは、ある日、高校の写真撮影にやってきたカメラアシスタントのアラナに一目惚れ。
 「運命が僕らを結びつけた」と調子よくしゃべり続ける、強引なゲイリーの誘いが功を奏し、ふたりは“テイル・オコック”で食事をする事になる。
 子役としては年を食い、俳優としては目が出ないゲイリーは、やがて事業を手掛けるようになり、アラナは、そんなゲイリーのアシスタントとして働くようになるが……

 「リコリス・ピザ」とは1970年代にカリフォルニアで展開していたレコードショップ・チェーンの名とのこと――映画の中に、その店は登場しないのですが、当時の音楽がぎっしり詰め込まれた、何とも懐かしい雰囲気があります。

 主演のクーパー・ホフマンは、名優にして監督の盟友でもあるフィリップ・シーモア・ホフマンの息子。何とも正体の掴めない、食えない主人公を堂々と演じている辺りは、やはり父譲りの資質でしょうか?
 ヒロインのアラナには、三姉妹バンド「ハイム」の三女アラナ・ハイムが起用され、そんな少年とずぶずぶの関係になる、隙のある”年上の女性(ひと)”を演じています。
 そしてこれは、そんな、ませた少年と大人になり切れない女性の、くすぐったくなるような恋物語となります――好きなのに好きと言えず、まともに手も握れない……それでも、相手がピンチとなれば、駆け出さずにはいられないのです。

 映画としては、起承転結も曖昧で、大した盛り上がりも見せないのですが、全編通して描かれるのは、正に、青春、そして、若さ――後で振り返ったら恥ずかしくなるようなエピソードを、まるで思い出を振り返るようにスクリーンに焼き付けています。
 若いふたりの、じっとしていられないようなエネルギーと躍動感に溢れる映画で、何者かになる訳でも、辿り着くゴールがある訳でもないのですが、ただ走り続けるだけの、こんな青春映画もあってよいのだ、と思いました。 
 

 (2022年 7月 2日 Kinoシネマ横浜みなとみらいにて)


(作品データ)

 ■監督・脚本

ポール・トーマス・アンダーソン

 ■出演

ゲイリー・ヴァレンタイン ・・・ クーパー・ホフマン

アラナ ・・・ アラナ・ハイム

(その他のキャスト)
 ショーン・ペン  トム・ウェイツ  ブラッドリー・クーパー  ベニー・サフディ

 ■コピー

この出会いは運命

戻る