これは、ジョアンナ・ラコフの自叙伝「サリンジャーと過ごした日々」を映画化したもの。
　主演は、「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」のマーガレット・クアリー。監督は「グッド・ライ〜いちばん優しい嘘〜」のフィリップ・ファラルドー。

　’９０年代のニューヨーク。作家を夢見るジョアンナは、老舗の出版エージェンシーで代表のマーガレットのアシスタントとして働き始める。
　日々の仕事は、世界中から毎日大量に届くサリンジャーへのファンレターを処理すること。だが、熱い想いが込められた手紙を読み、心揺さぶられたジョアンナは、飾り気のない定型文を送り返すことに抵抗を覚えるようになる。
　そんなある日、ジョアンナが電話を受けた相手は、あのサリンジャーだった――

　この映画、漠然とした夢と憧れを抱いて、大都会で働き始めた若者が、本当にやりたい事を見出して歩き始めるまでを描いた青春映画です。

　映画宣伝では「プラダを着た悪魔」の文芸版などと言われますが、カリスマに翻弄され、それによりモデルとなったアナ・ウィンターと言う人物を浮かび上がらせた「プラダを着た悪魔」に対し、こちらは、夢に向き合う若者の心理が中心であり、大分、趣が異なります。
　会社では周りは理解ある大人ばかりで、ライバルも居らず、仕事も理不尽とは言えない……と言う環境であり、ドラマには大きな波風も立たず、それ故に「面白くない」、若しくは「ドラマがない」と思う人もいるかも知れません。
　しかし、社会に出て、自身の才能に不安を覚え、何時しか流されていた若者が、心揺さぶられ、時に導かれて自身の道を歩き出す、と言う物語は、青春映画としては、こちらの方がよい出来と言えるのではないか、とも思います――それは、これがアメリカ映画ではなく、実はカナダ映画だったりするせいかも知れませんが。

　ジョアンナを演じたマーガレット・クアリーは、ジョアンナ・ラコフからの希望のキャストだったと言います。
　垂れ目のファニーフェイスで、どことなくアン・ハサウェイにも似ています。１６歳までは世界有数のバレエ団にいた、と言う事もあり、映画内のイメージシーンで踊るシーンの優雅さ、しなやかな動きは見事なものでした。
　

　（２０２２年　５月　７日　横浜ブルク１３にて）

（作品データ）

　■監督・脚本

フィリップ・ファラルドー　

　■出演

　ジョアンナ　・・・　マーガレット・クアリー
　
　マーガレット　・・・　シガーニー・ウィーヴァー

　Ｊ・Ｄ・サリンジャー　・・・　ティム・ポスト

（その他のキャスト）
　ダグラス・ブース　　サーナ・カーズレイク　　ブライアン・F・オバーン　　コルム・フィオール　　セオドア・ペレリン　　ヤニック・トゥルースデール
　ハムザ・ハック　　レニ・パーカー　　エレン・デヴィッド　　ロマーヌ・ドゥニ　　ギャヴィン・ドレア　　マット・ホラン　ド

　■コピー

　この街で、
　わたしは「特別」な、
　何かになりたかった――

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