これは、トニー賞4冠、グラミー賞最優秀ミュージカルアルバム賞に輝いた同題のブロードウェイミュージカルを、「クレイジー・リッチ！」のジョン・M・チュウ監督がミュージカル映画化したもの。
　主演は、シンガー・ソングライターとしても活動している「アリー/ スター誕生」のアンソニー・ラモス。原作ミュージカル、そして、高評価のミュージカル「ハミルトン」を手がけたリン＝マニュエル・ミランダが、映画版の製作や作詞・作曲を担当しています。

　ＮＹ・マンハッタン島の北西部、ラテン系移民が多く住む街、ワシントンハイツ。
　ラテン系ならではの歌やダンスが溢れていた街も、今や、個性的な街並みが人気となって家賃が高騰、古くからの住民が次々に引っ越して行ってしまった。
　そんな街で、親譲りの小さな商店を経営するウスナビも、故郷のドミニカに里帰りする事を考えていたが……

　この映画ですが、原作ミュージカルのブロードウェイでの初演から１６年……ワシントン・ハイツの住民たちを取り巻く状況は好転どころか更に厳しくなり、そうした背景を巧みに掬い上げて脚色した物語は巧みです――これは決して、“ハイツ”の住民だけのドラマではなく、グローバル化の進む現在世界で、移民として暮らす人々が、何処で、どのように生きるのか、を問う物語は普遍的なもの、と言えるものになっていると思います。そんなテーマを持つからこそ、中国系のジョン・M・チュウ監督起用の意図があったのではないでしょうか。
　自分的には冒頭から暫くはどうにも映画に乗れなかったのは残念――中盤以降、ドラマが動き出してからは物語世界に没入出来たのだが――ここは、オープニングから、一気に作品世界に引き込んで欲しかった所です。
　また、ヴァネッサ＆ニーナのＷヒロインに加え、ハイツのゴッドマザー、アブエラにダニエラと言う年配女性陣の存在感が圧倒的で、主人公のウスナビ（名前の由来は、ＵＳ−ＮＡＶＹのスペイン語読み！）の印象が薄く、狂言回しに見えてしまうのも気になりましたが……それはさすがに欲張り過ぎでしょうか。
　ただ、名曲揃いのオリジナルをアレンジした楽曲は素晴らしく、ステージを飛び出して、実際のストリートを舞台とした様々な演出も光ります。特に、映画ならではの演出効果を生かしたプールでのパフォーマンスや、ジョージ・ワシントン橋を背景にした”壁ダンス”は印象的な仕上がりで、現代のミュージカル映画として、最高レベルの仕上がりで、正にハリウッドのお家芸と言う所で、これはさすが、と言うしかありません。
　傑作ミュージカルの文句なしの映画版だと思います。
　

　（２０２１年　８月　４日　横浜ブルク１３にて）

（作品データ）

　■監督

ジョン・M・チュウ　

　■出演

　ウスナビ・デ・ラ・ヴェガ　・・・　アンソニー・ラモス
　
　ヴァネッサ　・・・　メリッサ・バレラ
　ニーナ　・・・　レスリー・グレース

　アブエラ　・・・　オルガ・メレディス
　ダニエラ　・・・　ダフィー・ルービン＝ヴェガ

（その他のキャスト）
　コーリー・ホーキンズ　　ジミー・スミッツ　　グレゴリー・ディアス４世

　■コピー

ＮＹの片隅――
　つまずきながら夢を追う、４人の<希望>の物語

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