これは、フランスの名優ダニエル・オートゥイユとファニー・アルダン共演のロマンティック・コメディ。
　監督・脚本・音楽は「タイピスト！」などに出演、本作が監督第2作となるニコラ・ブドス。　

　元売れっ子イラストレーターのヴィクトルは、デジタル化について行けずに仕事を失い、妻のマリアンヌからも見放されて家を追い出されてしまう。そんなヴィクトルを元気づけようと、息子のマクシムは、友人のアントワーヌが始めた、生涯忘れられない“あの日”を再体験する＜タイムトラベルサービス＞をプレゼントする。
　ヴィクトルが指定したのは“運命の女性”と出会った１９７４年のリヨンのカフェ「ベル・エポック」。広大な撮影セットで俳優たちが演じて見せる素晴らしい時間――そこでヴィクトルは“運命の女性”、マリアンヌに出会って……

　タイムスリップ、または現在の記憶を持ったままで過去の自分に生まれ直して、人生を再体験するファンタジーは、日本のマンガやドラマでは数多ある、お馴染みとも言える展開ですが、本作は、そんな甘口のファンタジー設定をよしとせず、過去を体験するのを、撮影所を使った個人向けリアリティショー・ビジネスとした発想が優れもの。
　それは、まるでテーマパークか体感型ゲームのようなものですから、そこで過ごす“輝かしい”時間と、リアルな人生の“色あせた”時間を行き来する事になり、物語は人生の「やり直し」ではなく、「建て直し」を描いて行くのです。

　ただ、この映画、このアイデアが秀逸ではあるものの、設定がいささか非現実的だと思います。顧客の望む世界を（例えセットであったとしても）構築し、俳優で再現して、と言うのは正に時代物の映画を作ると同様であり、その費用は到底個人で負担出来るものではないからです。
　そして、その世界を再現する側の俳優やスタッフにもドラマを用意しているだけに、中盤以降ドラマが発散し、物語の着地点がぼやけてしまった感もあるのです。
　むしろ、１９７４年の世界は全て記憶を元にした電脳世界の映像とし、ドラマは現実世界のヴィクトルと周りの人々だけにした方がよかったのではないかなぁ……

　過去を振り返って見れば、そこから現在まで積み重ねて来たものがあり、それらを含めて実りある人生なのだ、と言うテーマはいいし、物語の軸となるアイデアは秀逸で、キャストも豪華……見所は充分にあるだけに、中盤以降のまとまりのなさに加え、とってつけたような、いささか前時代的なハッピーエンドも残念に思えました。
　

　（２０２１年　６月２０日　Ｋｉｎｏシネマ横浜みなとみらいにて）

（作品データ）

　■監督・脚本

ニコラ・ブドス　

　■出演

　ヴィクトル　・・・　ダニエル・オートゥイユ

　マリアンヌ　・・・　ファニー・アルダン

　アントワーヌ　・・・　ギョーム・カネ

（その他のキャスト）
　ドリア・ティリエ　　ピエール・アルディティ　　ドゥニ・ポダリデス

　■コピー

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