これは、「愛がなんだ」の今泉力哉監督がオール下北沢ロケで制作した青春群像劇。
　出演は若葉竜也。穂志もえか、古川琴音、中田青渚、萩原みのりら、個性的な若手女優が顔を揃えています。

　下北沢の古着屋で働いている荒川青、２７歳。仕事が終われば、行きつけの古本屋に行き、馴染のバーに顔を出し、ライブハウスにも行くけれど、全て下北沢で用は足りる、こじんまりとした日常を送っていた。
　青は、先日、恋人の雪に浮気された上にフラれたが、いまだに彼女のことが忘れられない。
　そんな青に、美大に通う町子から、卒業製作の自主映画への出演依頼が入って……

　この映画、優柔不断で人付き合いの下手な若者が、彼女にフラれ、ヨリを戻すまでの物語。ドラマティックな盛り上がりや、感動的なエピソードがある訳でもなく、日常の、ちょっとしたすれ違い、失言、ひっかかり……そこにいちいち「あれ？」と言って立ち止まってみる、そんな映画。そんな映画だけど、これは面白い。
　撮影はオールロケで、結果としてカメラを動かせず、多くのシーンでカメラはフィックス。固定されたアングルの中、長回しで、登場人物が延々と（あるいはだらだらと）会話をする……舞台劇にもなっていないような感じなのですが、これが妙に面白いのです。
　この映画を、戸田真琴が、キネマ旬報誌で、
　「映画にならないシーンが続いていく映画」
　と評し、そして、それが嬉しいとも書いていたのは卓見だと思います。

　そんな映画は終盤に向けてエピソードを収斂して行き、散りばめられていたピースが、あたかもモザイク画をのように映画ならではのシーンを作り上げていくのです。
　そのうちのひとつ、路上で朝帰りの青と雪が顔を合わせるシーンは正に傑作――劇場内も爆笑でした。

　これぞ、シモキタ・スクリューボールコメディと言う所でしょうか。
　オフビートなノリは、日本と言うか今泉力哉ならではのもので、その中に人間関係に対する深い洞察、男女間の機微を盛り込んでいます。
　これは、今泉力哉監督の新たな傑作だと思います。　
　

　（２０２１年　４月　９日　シネマジャック＆ベティにて）

（作品データ）

　■監督

今泉力哉

　■出演

荒川青　・・・　若葉竜也

川瀬雪　・・・　穂志もえか

（その他のキャスト）
　古川琴音　　萩原みのり　　中田青渚　　村上由規乃　　遠藤雄斗　　上のしおり　　カレン　　左近洋一郎　　小竹原晋
　廣瀬祐樹　　芹澤興人　　春原愛良　　未羽　　タカハシシンノスケ　　倉悠貴　　中尾有伽　　五頭岳夫　　岡田和也
　成田凌

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