これは、独自の世界観が国際的に高く評価され、２０１３年の「山守クリップ工場の辺り」では、ロッテルダム国際映画祭、バンクーバー国際映画祭でグランプリを獲得している池田暁監督、初の拡大公開作。

　川を挟んで朝９時から夕方５時まで規則正しく戦争を続ける津平町と太原町。
　津平町に暮らす兵隊の露木は、朝から川岸に出勤し、お昼はおばさんの定食屋へ。夕方になれば、物知りなおじさんの煮物を買い、家に帰って眠る日々を過ごしていた。
　川向こうの太原町の事はよく知らないが、とてもコワイらしい。そして、町には「すごい部隊」と「新兵器」がやって来る、と言うウワサ話が流れていた。
　そんなある日、露木は、軍楽隊への異動を言い渡されて……

　この映画ですが、なるほど、全く日本映画らしくありません。登場人物が感情を見せず、台詞を棒読みする演技や、不条理な展開……アキ・カウリスマキや、ロイ・アンダーソン的な世界と、オフビートな笑いを作り出しています。
　物語の中心にあるのは戦争ですが、それ以外にも社会・権力・男女など様々な問題をカリカチュアライズして盛り込み、この不条理な世界が、我々の日常と地続きである事を示しています。

　なかなか魅力的な映画ですが、この内容に対してはいささか長く、中弛みを感じてしまい、中盤ではついうとうとしてしまいました。この長さであれば、川辺の練習を通しての川向こうの太原町の女性との交流や、川向こうに行き、戻って来た男のサスペンスなど、もう少し話を膨らませてもよかったように思います。
　また、戦争の怖さを、大量破壊兵器に象徴させているのですが、これは冷戦時代ならともかく、「現在の戦争」を示すにはいささか時代錯誤なようにも感じました。
　むしろ、川により分断されたふたつの町が相互に持つ不寛容さなどを前面に出した方が、より現代的な物語となったのではないでしょうか？
　

　（２０２０年　３月２９日　１０９シネマズ川崎にて）

（作品データ）

　■監督・脚本

池田暁

　■出演

露木　・・・　前原滉

（その他のキャスト）
　今野浩喜　　中島広稀　　清水尚弥　　橋本マナミ　　矢部太郎　　片桐はいり
　嶋田久作　　きたろう　　竹中直人　　石橋蓮司

　■コピー

９時から５時まで、
今日もきちんと戦いましょう！

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