すくってごらん

　これは、大谷紀子による同題漫画を、「ボクは坊さん。」の真壁幸紀監督が、歌舞伎俳優の尾上松也を主演に実写映画化したもの。
　共演は、「ももいろクローバーZ」の百田夏菜子に、元「劇団四季」の柿澤勇人。

　東京本店のエリート銀行員だった香芝誠は、些細な失敗により出世街道からはじき出され、荒んだ気持ちを抱えて地方の支店に左遷される。
　そこで、金魚すくいの店を営む謎めいた美女の吉乃に一目惚れしてしまう。
　左遷のショックで、心を閉ざしていた香芝だったが、吉乃の事がどうにも頭から離れない。何とか吉乃に近づこうとする香芝であったが、ある秘密を抱える吉乃の心もまた閉ざされたままだった……

　この映画、予備知識なしで観始めたのだけど、これがビックリのミュージカル映画。　
　尾上松也の声がいいのは知っていたけど、予想以上の歌唱パフォーマンスに、百田夏菜子の見事なピアノ演奏――吹き替えでなく、彼女、実際に演奏してます。また、元「劇団四季」の柿澤勇人のパフォーマンスが見事なのは当然としても、石田ニコルなどサイドキャラまでしっかり歌って踊る……しかも、殆どの楽曲がオリジナルなのです。これは日本映画として珍しい本格ミュージカルでした。
　また、奈良の古い町並みを活かし、それを土台に和風ファンタジックな世界を作り上げる美術も見事と言っていいでしょう。

　一方で、「金魚すくい」の「すくう」と言う行為を、登場人物をそれぞれが抱えた問題から「救う」に引っかけた物語は陳腐だし、モノローグ（これだけでも結構煩い）心情をいちいち字幕で表すのも煩わしく、観始めて１０分ほどは正直後悔したくらい。
　だけど、ミュージカルとして演者のパフォーマンスを楽しむうちに、そんな瑕疵は気にならなくなってしまいました――この映画、エンターテイメントとしての価値は確かに高いものがあります。
　また、ミュージカルとしてはハリウッド的と言うか、途中にインターバルを入れる所や、外連味ある演出など、どちらかと言うとボリウッド的。
　最後を全員出演のお祭りにしたのもボリウッド的ですが、それならばハッピーエンドの大団円として欲しかった所。それを、ちょっとしんみりと終わらせてしまう辺りが日本的なのかも知れませんが……
　

　（２０２１年　３月１２日　ＴＯＨＯシネマズ川崎にて）

（作品データ）

　■監督

真壁幸紀

　■出演

香芝誠　・・・　尾上松也

生駒吉乃　・・・　百田夏菜子

王寺昇　・・・　柿澤勇人

（その他のキャスト）
　石田ニコル　　矢崎広　　大窪人衛　　清水みさと　　辻本みず希　　北山雅康　　鴨鈴女　　やのぱん
　竹井亮介　　川野直輝　　笑福亭鶴光

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人生も恋も　大ピンチ！

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