野球少女

　これは、プロ野球選手を目指す女子高校生描く青春スポ根映画。
　主演は、日本でも人気の配信ドラマ「梨泰院クラス」に出演して注目されたイ・ジュヨン。監督は、本作が初長編のチェ・ユンテ。

　最高球速１３４km/hを誇る天才野球少女チュ・スインは、高校卒業後、プロ野球入りをすることを目指して誰よりも努力して来た。
　だが、プロ球団からの誘いの声はなく、そして、女子だからというだけでトライアウトも受けられず、母親からも「いい加減諦めろ」と反対をされてしまう。
　そんな中、スインの通う高校の野球部に、プロを目指し夢破れたチェ・ジンテが新しくコーチとして赴任して来るが……

　女性で１３０km/h以上の球速を出せるのは、現実には世界で数人しかいないそうです。ですから、最高球速１３４km/hを投げられるのは正に女子野球では世界トップ水準なのですが、１５０km/hの剛速球を投げる投手がゴロゴロしているプロ野球の世界では通用しません。
　でも、スインはそれに納得が出来ないのです。
　幼馴染みでリトルリーグから一緒にやって来た男子選手はプロ球団にスカウトされました――リトルリーグから中学までは自分の方が上手かったのに、と。そして、何故、女だから、と言うだけで「プロ野球選手になりたい」と言う夢を持ってはいけないのか、と。
　映画は、そんなスインの憤懣を描いて行きます。
　スインが寡黙で、感情も露わにしないだけに、観る側としては感情移入し辛いものがあり、また、野球映画なのに試合シーンが殆どなく、カタルシスを覚えるようなシーンもない上に、スインが打ちのめされるシーンが続く前半はなかなか辛い展開です。

　後半はコーチのジンテが、スインの強みを引き出し、プロで戦える力を持たせようとします。
　――この辺は、水島新司の「野球狂の詩」の水原勇気編そのまま、と言う感じですし、その決め手となるのがナックルボールと言う“魔球”だと言うのも不思議な一致を見せています。
　スインのストレートが回転の高いジャイロボールで、球速の低下が少ない（＝手元で延びる）。だから、低速で球筋を掴み辛いナックルと見せ球に投げ、ストライクカウントを稼いで直球勝負なら、球速の差で、１３４km/hも実測以上に速く見える、と言う、個性を活かした“武器”を持てばプロでも戦える――“女だから”プロ野球選手になれないのではなく、プロ野球選手になれる力が無い、プロとして戦える“武器”を持たないからなれない――だから、その“武器”さえあれば、女だろうが男だろうが関係がない、と言う展開は、男女格差に煩い現代社会において、女性の社会進出に突きつける提言のひとつになるのではないでしょうか。
　そうした社会性もこの映画の見所だと思います。

　映画は後半になってスポ根らしい展開を見せて行きます。スインが力を発揮する、トライアウトでの投球勝負には力が入るし、孤独に戦うスインも、決してひとりではなく、更にそんなスインの姿に勇気づけられて、後に続く者が出て来る、と言う展開には胸が熱くなります。
　これはよい映画でした。
　

　（２０２１年　３月　６日　チネチッタにて）

（作品データ）

　■監督・脚本

チェ・ユンテ

　■出演

チュ・スイン　・・・　イ・ジュヨン

チェ・ジンテ　・・・　イ・ジュニョク

（その他のキャスト）
　ヨム・ヘラン　　ソン・ヨンギュ　　クァク・ドンヨン　　チュ・ヘウン

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あきらめない。何があっても。

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