太陽は動かない

　これは、「悪人」や「怒り」など映画化が相次ぐ吉田修一による国際スパイサスペンスを「海猿」シリーズの羽住英一郎監督が映画化したもの。尚、本作はＷＯＷＯＷで放送中の連続ドラマと連動した企画となっています。
　出演は、藤原竜也と竹内涼真。ハン・ヒョジュ、ピョン・ヨハンといった韓国スターも参加し、日本に加えブルガリアで大規模ロケが行われました。

　日本の秘密情報組織・ＡＮ通信のエージェント・鷹野と相棒の田岡。彼らの心臓には爆弾が埋め込まれており、２４時間ごとの定期連絡を怠ると爆死するようになっている。
　２人は、ブルガリアで任務中に爆死した同僚の山下が追っていた次世代エネルギーの極秘情報を調べ始めるが……

　この映画ですが、まずエージェントに爆弾を埋め込み、定期連絡を怠っただけで爆死させる、と言う設定から噴飯物だと思いました――実際、映画冒頭のエピソードでは、極秘情報を持つ山下を爆死の危機から救う為だけに、２人のエージェントが命をかける事になると言う、不合理な状況になるのです。こんな設定のスパイものなどロクなものではあるまい、と不安はあったのですが……その不安に反し、導入部はなかなか見せました。
　ブルガリアを舞台に、日本映画らしからぬ派手なカーアクションを見せるなど、こうした演出、羽住監督はなかなかカッコよく撮るのです。
　実際、ＷＯＷＯＷ連動と言う事で、予算もたっぷりかけられたようで、海外ロケを多用し、韓国スターを起用するなど、日本映画らしからぬスケールで製作されただけの事はあり、この辺りはなかなか大したものなのです。

　だが、この映画、冒頭のエピソード以降、どんどん印象が悪くなります……特にいけないのが、結構な尺をとってしまっている過去パートでしょう。
　確かに、原作にもある内容だけに、これは無視出来ないのは判ります。しかし、長大な原作の一部を切り抜いた映画にはこれは不要なものでしょう――本来、こうした時間のかかるドラマは連続ドラマで描き、映画は派手な見せ場を中心に描くべきではないでしょうか？この構成には疑問を覚えました。
　また、そうした中途半端な構成故に、登場人物の行動原理が判らず、一連の出来事の決着がよかったのか、悪かったのかさえ判らず、カタルシスも得られないのではどうしようもありません。

　折角の吉田修一の物語、ＷＯＷＯＷ連動による潤沢な資金が可能としたスケールの大きさにより、舞台は整ったのに、それを活かす事が出来なかった……コロナ禍による公開延期で、ドラマ連動さえ不発に終わった辺りも含め、これは本当に残念な映画でした。　
　

　（２０２０年　３月　５日　チネチッタにて）

（作品データ）

　■監督

羽住英一郎

　■出演

鷹野一彦　・・・　藤原竜也
田岡亮一　・・・　竹内涼真

山下竜二　・・・　市原隼人

（その他のキャスト）
　ハン・ヒョジュ　　ピョン・ヨハン　　南沙良　　日向亘　　加藤清史郎　　横田栄司　　翁華栄　　八木アリサ
　勝野洋　　宮崎美子　　鶴見辰吾　　佐藤浩市

　■コピー

心臓に爆弾。リミットは２４時間。
ミッション失敗は――爆死。

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