シリアにて

　これは、内戦が続くシリアの首都ダマスカスを舞台に、ある家族の緊迫の24時間を描いた密室劇。

　シリアの首都ダマスカス。内戦が続き、住民の多くが逃げ出す中、戦地へ赴いた夫の留守を預かる女主人オームは、家族と共にアパートの一室にこもり、密かに生活を続けていた。そこには、幼子を抱えた上階の住人であるハリマ夫婦も身を寄せていた。
　ある日、レバノンへの脱出の手続きをするためにアパートの外へ出たハリマの夫は、スナイパーに狙撃され、駐車場の端で倒れてしまう。それを目撃したメイドのデルハンは慌ててオームに知らせるが、日中、外に出るのは危険で、助けに行くことはできない。
　だが、オームはハリマを守るため、その事を伏せる選択を下すが……

　この映画、舞台となるのはアパートの１室、窓から見えるのもせいぜいアパートの駐車場まで、と言う事実上の密室劇。
　外部からの侵入を拒んで来た室内では、変わらぬ日常があるものの、絶え間ない銃声や、空爆、爆破テロの衝撃が、外が戦場である事を伝えます。
　室内にいる男性は、老人と少年のみ。社会を動かす壮年の男性は、強奪と凌辱目的でやってくるという、図式化された人物配置は、これが一種の風刺劇である、と言うことを示しており、「戦争」と言うものが如何なるものであるのかを、観客に突きつけます――日々の平和な暮らし、そして、命をつないで行く家庭と言うものは、そこにはいない男たちにより、理不尽に破壊されるものである、と……

　戦火の下の日常を、緊張感を持続させて描く、見応えのある映画ですが、エビソードを数珠繋ぎで見せる展開は、いささか工夫がありません。また、展開としても、２４時間で最後にリセットがかかってしまうように見えるのも物足りない所です。
　演出は入ってしまいますが、何らかのタイムサスペンスを設けた映画としては盛り上がったでしょうし、留守を預かるオームの意固地さが雪隠詰めの状況を生んだ以上、物語的には、部屋を出る所まで描いて欲しかったように思います。　
　

　（２０２１年　１月１７日　シネマジャック＆ベティにて）

（作品データ）

　■監督・脚本

フィリップ・ヴァン・レウ

　■出演

オーム　・・・　ヒヤム・アッバス

ハリマ　・・・　ディアマンド・アブ・アブード

デルハン　・・・　ジョリエット・ナウィス

（その他のキャスト）
　モーセン・アッバス　　モスタファ・アル・カール　　アリッサル・カガデュ　　ニナル・ハラビ　　ムハマッド・ジハド・セレイク

　■コピー

カーテン一枚、窓の外は死の世界。
　でも、生きる希望は決して捨てない。

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