聖なる犯罪者

　これは、昨年のアカデミー賞外国映画賞にノミネートされた、実話を基にしたポーランド発の人間ドラマ。
　監督は、「リベリオン ワルシャワ攻防戦」がポーランド興行収入歴代１位を記録したヤン・コマサ。主演のバルトシュ・ビィエレニアはベルリン国際映画祭にて注目の若手俳優としてシューティング・スター２０２０に選出されています。

　少年院で神父と出会った２０歳のダニエルは、熱心なキリスト教徒となり、ミサの手伝いをするようになる。ダニエルは教会で働く事を希望するが、前科者は聖職者になれない決まりだった。
　仮釈放されたダニエルは、田舎の製材所に就職することになるが気が進まない。製材所の近所の教会で、冗談で自分は司祭であると言ったところ、身体の具合の悪い司祭から、司祭代行を任されてしまう。
　ミサを始め、教会の仕事を何とかこなして行くうち、ダニエルは、若いが親しみやすい司祭として町の人々からも信頼されていくが……

　これは、宗教、そして信仰と言うものを考えさせられる物語です。
　ダニエルは、少年院から仮釈放される際、看視から「酒とクスリはもう止めろ」と言われたものの、その足で盛り場に向かってしまうような男なのですが、何処か無垢な部分があり、少年院で出会った司祭から受けたキリスト教の教えを真に受けています――それは、人々を教えにより導き、教会を中心に町の人々をまとめること。
　日々の暮らしは典型的な不良少年のダニエルなのですが、その思いだけは本物で、それ故に、神学校も出ていない偽司祭ながら、やがては本物の司祭以上に人々をまとめて行く、と言うのが面白い所です。
　そして、クライマックスとなるのは、そんなダニエルの最後の決断――そして、その後の、いささか血生臭い“奇跡”は、そんなダニエルに対するひとつの恩恵でしょうか……？

　私としてはそんなダニエルが聖職者になる事を禁ずるポーランドの教会は余りに狭量（ちなみに日本ではそのような決まりはなく、元ヤクザの牧師さんがいたりします）とも思うのですが、さすがにキリスト教圏ど真ん中の欧州で、カトリックともなれば厳しいのもやむを得ない所なのでしょう。
　そんな現実を是とする辺りや、いささかドラマチックな展開に欠ける内容などは、実話が元になっていると言う事と、監督の誠意故の事でしょうか――それでも、宗教とは何か、人をまとめ、人を導く資格とは何なのか……“宗教”と言うものが持つ意味を考えさせられる映画になっていると思います。　
　

　（２０２１年　１月１６日　Ｋｉｎｏシネマみなとみらいにて）

（作品データ）

　■監督

ヤン・コマサ

　■出演

ダニエル　・・・　バルトシュ・ビィエレニア

マルタ　・・・　エリーザ・リチェムブル

（その他のキャスト）
　アレクサンドラ・コニェチュナ　　トマシュ・ジィェンテク　　レシェク・リホタ　　ルカース・シムラット

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目の前にある事実を信じるな――

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