誰がハマーショルドを殺したか

　これは、マッツ・ブリュガー監督が、１９６１年に起きた国連事務総長ダグ・ハマーショルド墜落死事件の真相を追うドキュメンタリー。
　その衝撃的な内容で、サンダンス映画祭では監督賞を受賞しています。
　
　１９６１年９月、当時の国連事務総長ダグ・ハマーショルドは、コンゴ動乱の停戦調停のため現地に向かう途中、ローデシア（現ザンビア）で乗っていた旅客機が墜落、ハマーショルドを含む乗員・乗客の全員が死亡した。
　デンマーク人ジャーナリストで映画監督のマッツ・ブリュガ―は、亡き父の遺言により長くこの謎を追うヨーラン・ビョークダールと共に事故の真相解明のためアフリカ、ヨーロッパ各地を飛び回って追跡取材するが、調査は難航する。
　だが、彼らは南アフリカ海事調査教会（ＳＩＭＡＲ）：サイマーと言う団体に行き着き、その調査を進めるうちに思わぬ事実を知る事になるのだった……

　この映画の監督、マッツ・ブリュガーは、お騒がせな作品を手掛けて来たドキュメンタリー作家で、「ポラット」のサシャ・バロン・コーエンの同類のような人物。
　そんな監督の仕掛ける本作、観る者を煙に巻こうとするかのような技巧が目立ち、また時に、悪ふざけのような取材もあって、真面目に事件を追うヨーラン・ビョークダールが気の毒に思えるような場面もあります――しかも、その笑えるネタがいささか滑り気味なのが尚更です。
　中盤までは、取材対象から話を聞くだけ、と言う単調、かつ淡々とした展開に眠気さえ覚えてしまったのですが、サイマー（ＳＩＭＡＲ）に辿り着いてからは、思わぬ急展開に目が覚めました。
　１９９０年代のエイズの流行は、人種隔離政策の撤廃による黒人の台頭を恐れた英国政府と南アフリカ政府による人為的な拡散で、サイマーがその実行機関だった……と言ういささか危ない話が出て来て、しかも、その事実を公表しようとしたサイマーの女性職員が暗殺された、と言うのですから――これにはびっくり。正に瓢箪から駒、ハマーショルド墜落死事件を追う調査が、思わぬ裏情報を引き当てた、と言う所でしょうか……
　
　残念なのは、マッツ・ブリュガー監督演出の映画の語り口が、それをいささか胡散臭いものに見せてしまっている事……まぁ、これをあまり真剣にやると、英国政府を敵に回しかねません。信憑性について、敢えて踏み込まない辺りが、商業映画としてのバランスをとった巧みな選択とも言えるのかも知れませんが……

　ただ、社会を、世界を動かそうと言う大きな力が働く時、犠牲になるのは、貧乏な庶民や、女性と言う弱者である、と言う事実の提示は、現代の時勢からしても物議をかもすのは確実です。
　サンダンスでの受賞も、そうした社会的影響を考えての事ではないかと思います。　
　

　（２０２０年　１１月　８日　シネマジャック＆ベティにて）

（作品データ）

　■監督・脚本

マッツ・ブリュガー

　■出演

マッツ・ブリュガー　　ヨーラン・ビョークダール

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