ＴＨＥ　ＨＵＮＴ
ザ・ハント

　これは、米社会の分断を過激に風刺した内容により、米国ではトランプ大統領の鶴の一声で、９月の公開予定が無期限延期となった問題作。
　製作は、「ゲット・アウト」、「透明人間」など、低予算ながらヒット作を次々と送り出すブラムハウス・プロダクションズ。監督は「コンプライアンス　服従の心理」のクレイグ・ゾベル。

　広大な森の中で目覚めた１２人の男女。彼らは、ここに誘拐されて連れられて来た。彼らは、森を抜け、草原に置かれた木箱を開け、そこから数々の武器を取り出す。そこに突然、銃声が鳴り響き、数人が射殺された。生き残った者たちは武器を取り、逃げまどいながら、やがて気づく――保守派の陰謀論者が語る噂、リベラルのセレブが娯楽目的で庶民を狩る“マナーゲート（人間狩り疑惑）”がこれではないか、と。
　だが、“獲物”のひとり、クリスタルが予想外の反撃に出たことから、この人間狩り計画は狂い始めて……

　これはトランプ大統領支持者の実に３７％が信じていると言う「Ｑアノン」の陰謀論を元にしています――それは、「リベラルのセレブがユダヤ資本と闇のネットワーク繋がり、子供を誘拐して生贄にしている」と言うようなものなのですが、これを、馬鹿げた妄想と、一笑に付す事が出来ないのが、実際にピザ店がその拠点だとして襲撃されるなどの事件が起きている――これが”ピザゲート”――からで、今や、ＳＮＳプロバイダもＱアノン関連の書き込みを削除するなど、無視できない社会問題になっています。

　これは、そうした状況を痛烈に風刺した映画なのです。
　ただ、この映画、妙に手が込んでいます。Ｑアノンの陰謀論が“真実”だったらと言う設定を更に掘り下げ、そんな事が起き得るとしたら、と言う所に踏み込んで行くのです。
　この設定には唸らされましたが、いささか込み入った感じの構成となり、悪い冗談としか思えない現実を、正に冗談として笑い飛ばそう、という当初の狙いから外れ、何をやっているのか、何を風刺しているのかが分からなくなってしまっているようにも思えました……正に、策士策に溺れるの好例ではないか、と。

　映画としては低予算ながら、あれこれ工夫があって楽しめます。
　ポイントとしては、”獲物”として集めた１２人の中に、人違いにより、“ハンター”側の軍事顧問をも上回るスキルを持つ、アフガン帰りの女性兵士が紛れ込んでいた、と設定。
　まるで、「ランボー」のように、丸腰の状態からの大逆転を見せる展開は面白く、風刺劇としての部分を除いて、サバイバル・アクションとしても充分楽しめるものになっていると思えました。　
　

　（２０２０年　１１月　１日　ＴＯＨＯシネマズららぽーと横浜にて）

（作品データ）

　■監督

クレイグ・ゾベル

　■出演

アテナ　・・・　ヒラリー・スワンク

クリスタル　・・・　ベティ・ギルピン

（その他のキャスト）
　エマ・ロバーツ　　アイク・バリンホルツ　　ウェイン・デュヴァル　　イーサン・サプリー

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