これは、作詞家・小竹正人による同題小説を原作に、「ユリイカ」の青山真治が「共食い」以来、７年ぶりに監督した映画。
　主演は、多部未華子。共演は「愛がなんだ」の岸井ゆきの、「植物図鑑」の岩田剛典。

　小さな出版社に勤める２８歳の小早川直実は、両親の事故死の後、叔父が投資用に所有する渋谷のタワーマンションの一室に住むことになる。
　まるで“空”に住んでいるかのようなその部屋で共に暮らすのは、長年の相棒、黒猫のハルだけ。喪失感を抱えながら浮遊するように生きる日々。そんな彼女の前に突如として現れたのは、同じマンションに住むスター俳優・時戸森則だった……

　これは、高級ホテルのような部屋、近所にはスター俳優……と言う、庶民にはまるで縁のない、正に“天上の世界”の物語。
　両親の死と共に、それまでの暮らしを失い、喪失感と共に、そんな世界で暮らすようになった直実は、最後まで観ていても何を考えているのか掴み難い――もっとも、彼女を演じた多部未華子でさえよく判らなかったというのだから当然かも知れませんが――それでも、これは家族の物語であるのは理解出来ます。
　時戸森則は、家族になる事を「ぞっとする」と言います。そして、プライベートに遠慮なく踏み込んで来る叔母の明日子には苛々させられます……その感覚は自分にも判るし、共感出来ます。自分自身、そうした人間関係を疎ましく思う時があるからです。
　この物語は、そうした極端とも思える人間関係と対比させつつ、それまで疑う事もなかった両親と言う“家族”を失った直実が、“家族”と言うものをあらためて整理するものなのだと思います。

　多部未華子は、直実と言う難役を上手く演じていると思います。十代の少女のような表情を見せる事もあれば、大人の女性としての強さを見せるシーン、そして、意外にも積極的な性愛シーンも……また、破水した後輩を叱りつける場面では凄みさえあったほどです。

　自分的には面白いと思ったけれども、、タワーマンションを舞台とする浮世離れした印象が、かつてのトレンディドラマを感じさせ、食わず嫌いで敬遠する人も多いのではないかと思います……また、観ても評価は分かれそうな感じのする映画です。
　

　（２０２０年　１０月２８日　横浜ブルク１３にて）

（作品データ）

　■監督・脚本

青山真治

　■出演

小早川直実　・・・　多部未華子

時戸森則　・・・　岩田剛典

（その他のキャスト）
　岸井ゆきの　　美村里江　　鶴見辰吾　　岩下尚史　　��橋洋　　大森南朋　　永瀬正敏　　柄本明

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