これは、広島に実在するストリップ劇場を舞台にした物語。
　主演は、加藤雅也。ストリッパー役としては「ジムノペディに乱れる」の岡村いずみの他、ベテランストリッパーの矢沢ようこが起用されました。

　閉館興行を控えた広島の老舗ストリップ劇場「広島?一劇場」。
　社長の木下は、最後の舞台を前に過去の華やかな時代に思いを馳せる、久しく忘れていた昔の恋、そしてそこから始まったストリップ稼業を振り返る――そんな木下の前に、かつて彼が恋したストリッパーの踊り子とうりふたつの踊り子、メロディが現われて……

　ヌードなどスマホでいくらでも見られる時代にストリップなど時代遅れと思われるかも知れませんが、それでも根強く活動しているのが現実で、実際の「広島?一劇場」も、映画の通り二度も閉館宣言しながら再開し、「閉館詐欺」などと言われつつも、今も変わらず営業しています。
　何と言われようとも、そこにしがみつく、その場所に特別な感情がある人がいる限り消え去るものではないのでしょう……これは、そんな諦めの悪い中年男……いや、老人の物語なのです。

　本物の「広島?一劇場」で撮影された映像は貴重なものでしょうし、楽屋から舞台へと向かう階段の壁を埋める無数のキスマークには心動かされます……そう、この劇場はストリッパーらにも愛された場所だったのです。
　そして、木下社長がストリップ劇場を預かるようになるまでを、はかなくも美しいロマンスとして描き、ストリップ劇場とは、そんな悔恨と喪失感を抱えた大人のものと示す物語は、既に木下社長に近い年になってしまっただけに、共鳴するものがありました。

　そんな社長の若き日の想い人を演じるのは岡村いずみ。気まぐれな猫のようなコケティッシュが感じは個人的には好きなのだが……彼女がファム・ファタールと言うのには、ちょっと物足りなさも感じてしまいました。
　クライマックスで矢沢ようこが見せる若い頃から変わらないプロポーションと、圧倒的なパフォーマンスを見せられると尚更です。
　（それにしても矢沢ようこは久々に見るが、酒焼けした声と、顔には年齢を感じさせられましたが、舞台に上がったらもう……）

　惜しいと思ったのは、これが木下社長のセンチメンタリズムに傾斜した思い込みではないか、と感じさせてしまう事。
　舞台を守る者だけでなく、舞台に立つ者、観る者、そうした様々な思いを交錯させ、より普遍的な物語して欲しかったと思いました。　　
　

　（２０２０年　１０月２３日　シネマジャック＆ベティにて）

（作品データ）

　■監督・脚本

時川英之

　■出演

木下社長　　　　　 ・・・　加藤雅也
青年時代の木下　・・・　犬飼貴丈

メロディ　・・・　岡村いずみ

（その他のキャスト）
　矢沢ようこ　　横山雄二　　末武太　　高尾六平　　金子勝典　　國武綾　　前田多美　　柿辰丸　　松本裕見子
　さいねい龍二　　深海哲哉　　糸永直美　　青野光臣　　中島千鶴　　AKIHO　　足袋井直弘　　ゴトウイズミ　　椎名ユキ
　奥野てっぺい　　HIPPY　　大義サトシ　　ファンキー堀田　　前浩貴　　吉崎一　　コハルホノカ　　あらきあきゆき
　田尾竜哉　　新佛誠康　　本多靖　　ボンバー石井

　■コピー

広島――
伝説のストリップ劇場に咲く　美しく切ないラブストーリー

［戻る］