東京の恋人
Ｔｈｅ　ＭＯＤＥＲＮ　ＬＯＶＥＲＳ

　これは「ＭＯＯＳＩＣ　ＬＡＢ２０１９」で、主演の川上奈々美が最優秀女優賞を受賞した下社敦郎監督作を単独劇場公開したもの。
　
　大貫立夫は、大学卒業後、映画の道を目指すも挫折、当時交際していた彼女の実家である群馬の建設会社で働く事になり、彼女と結婚をし、近々子供も生まれる。そんな立夫に、ある日、大学時代の恋人の満里奈から電話が入る。
　「写真を撮って欲しい」と言う満里奈に逢う為、立夫は、週末、数年ぶりに東京へ向かった。土曜は、同様に映画に挫折した先輩宅を訪れ、日曜、１０年ぶりに再会した満里奈は「海が見たい」と海辺へとクルマを走らせて……

　これは、夢破れた男と、その夢に青春を費やした女の恋愛の顛末を描く映画。
　夢破れ、人生を惰性で生きているような立夫に対し、満里奈の中には未だに燻っているものがあります――だから、彼女は「写真を撮って」と言ったのだ。映画を志した者ならば、その“写真”が映画を意味するのは判るはずだから。
　また、結婚している事を隠さなかった満里奈と、結婚指輪をクルマに置いて来た立夫の狡さも対比され、それが、最後の満里奈のメッセージを心打つものにするのです――“懲役１８年”。ひとりの女の献身と愛情、そして人生を変えてしまった代償として彼女が求めた求刑――立夫は自分の夢だけではなく、そんな彼女の想いからも逃げ出したのです。
　それをあらためて突きつける、これは青春を不完全燃焼で過ごした人に送る悔恨の物語なのです。

　そんな立夫を演じたのは、「五億円のじんせい」の森岡龍。敢えて個性を抑え、記号的な二枚目に徹したのは、観る男に感情移入を促す狙いでしょうか？
　それに対し、川上奈々美は、２０歳当時の溌剌として輝くような満里奈と、３０歳の残り火のような情熱と、口には出せない抗議を抱え込んだ満里奈を演じ分けており、これは高い評価を受けたのも納得。ＡＶでは「みぃなな」の愛称でファンも多い川上奈々美は、最近ではドラマ色の強い作品に活動の中心を移してはいましたが、これほどは思いませんでした。本作では、立派な映画女優の顔をしていますし、ラストカットの笑顔は強く印象に残りました。
　

　（２０２０年　９月１３日　シネマジャック＆ベティにて）

（作品データ）

　■監督

下社敦郎

　■出演

大貫立夫　・・・　森岡龍

砂原満里奈　・・・　川上奈々美

（その他のキャスト）
　吉岡睦雄　　階戸瑠李　　木村知貴　　西山真来　　睡蓮みどり　　窪瀬環　　辻凪子　　秋田ようこ　　松本美樹　　矢野昌幸
　いまおかしんじ　　佐藤宏　　マメ山田　　榎本智至　　伊藤清美

　■コピー

Ｉ　ｃａｎ　ｓｅｅ　ｙｏｕ
Ｂｕｔ　Ｉ　ｃａｎ　ｎｅｖｅｒ　ｒｅａｃｈ　ｙｏｕ．

　■Ｌｉｎｋ

［戻る］