いつくしみふかき

　これは、昨年のゆうばり国際ファンタスティック映画祭で観客賞受賞の人間ドラマ。
　監督は、劇団チキンハート、大山劇団の作・演出家を務める大山晃一郎。
　バイプレイヤーとして数々の作品に出演する渡辺いっけいが映画初主演。劇団チキンハート主宰の遠山雄が主人公の息子の進一を演じている。

　長野の山村で、加代子が出産に臨んでいるその最中、余所者だった夫の広志は加代子の実家に盗みに入っていたのを見つかり、悪魔として村から追い出される。
　この騒動の際に生まれた進一は、父親は触れてはいけない存在として育てられた。３０年後、進一は母親に甘やかされ、一人では何もできない男になっていた。そんなある日、村で連続空き巣事件が発生。進一は犯人に違いないと決めつけられ、村から追い出されてしまう。
　一方、広志は、舎弟を引き連れ、人を騙して金を巻き上げていたが、ある事件で警察に追われ、知り合いの牧師の所に逃げ込む。そこには、居場所のない進一がいて、２人は互いに実の親子だと知らないまま奇妙な共同生活を始めて……

　この映画、舞台とした長野県・飯田市でなかなか理解が得られなかったと言います……まぁ、それも当然で、村で盗みを働いたとして山狩りまでして取り押さえて追放し、その息子も「悪魔の血」だとして追い出してしまう、と言う村社会の描写は、一体、何時の時代の話だろうと思わせます。長野の山村が、これではまるで前時代的な閉鎖社会ではないですか。
　映画としては、遠山雄の知人が実際に抱えていた親子の葛藤を土台とし、悪党の子が背負う苦悩と、そんな親を理解し受入れられるかと言う問題を描こうとするもの。これは語るべき価値のあるテーマで、それを映画にしようとする真摯さも感じます。
　だけど、前述したように村社会の閉鎖性の描写は時代錯誤、教会を舞台としながらも、キリスト教的な罪と赦しが描かれる訳ではありません。ひとりでは何も出来なかった進一の再出発と、出会いを描く成長物語も中途半端であり、１本の映画としてはバラバラな印象を受けます。
　これはさすがに、大山監督、意あれど力足りず、と言わざるを得ないのではないでしょうか。　
　

　（２０２０年　９月１３日　シネマジャック＆ベティにて）

（作品データ）

　■監督

大山晃一郎

　■出演

広志　・・・　渡辺いっけい

進一　・・・　遠山雄

加代子　・・・　平栗あつみ

（その他のキャスト）
　榎本桜　　小林英樹　　こいけけいこ　　のーでぃ　　黒田勇樹　　三浦浩一　　眞島秀和　　塚本高史　　金田明夫

　■コピー

　■Ｌｉｎｋ

http://www.itukusimifukaki.com/

［戻る］