喜劇　　

　これは、「百円の恋」の脚本家・足立紳による自伝的小説を、足立紳自ら監督して映画化したもの。
　主人公夫妻を、濱田岳と水川あさみ。娘のアキを「駅までの道をおしえて」の新津ちせが演じています。

　売れない脚本家・豪太は妻のチカと娘のアキの３人で暮らしている。豪太は既に３ヶ月もセックスレスで、何とか妻とセックスに持ち込もうとするが、昨年は年収５０万円しかなかった夫に、チカは冷たい。
　そんなある日、知り合いのプロデューサーが、“うどんを打つ女子高生”の企画を持ち出した。豪太は、この企画をモノにすべく、シナリオハンティングを兼ねた香川への家族旅行を提案する。
　チカは、小豆島に住む友人を訪れる事を条件に、渋々豪太の取材旅行に付き合うが……

　この映画、何と言っても夫婦を演じた濱田岳と水川あさみがいい。
　中年男の脂ぎったような精力を露骨に見せるのは、これまでの濱田岳にはない役柄だし、水川あさみ演じるチカの、「雑魚」、「クズ」、「息もするな、死ね」と言う遠慮のない罵倒っぷりも凄まじい――よくもまぁ、これで夫婦関係が続いたものと思うが、足立監督曰く「実際のウチの奥さんの方が酷い」と言うのには絶句……
　それでも、チカは夫の才能を誰よりも信じており、未だに新婚当時の願掛けを貫き、罵倒もまた信頼の裏返しである事が判って来る終盤には、ちょっとじーんと来てしまうのですが。
　あと、新津ちせは大分背が伸びたが、相変わらずの可愛さに子役らしい演技を感じさせない自然体の演技を見せて、確かな才能を感じさせています。

　この映画、タイトルには「喜劇」とあるのですが、正直、これはそんなに笑える話ではありません……ただ、「近くで見たら悲劇、遠くから見れば喜劇」と言う、正にそのまま、夫婦を客観視する事で、漸く笑う事が出来るものだと思います。
　それを如実に示しているのがクライマックスの家族号泣のシーンで、３人揃って抱き合って泣いているのに、途中から豪太は、事態を客観的に見てしまったようで、笑い出してしまっているのです。
　
　そんな夫婦の関係を、てらいも無く語る足立監督……これは確かに非凡なものを感じます。

ＰＳ
　夫妻の暮らすアパート兼仕事場……これが何と足立監督の自宅だと言うから驚き。なるほど、生活感がある訳です。　
　

　（２０２０年　９月１１日　ＴＯＨＯシネマズららぽーと横浜にて）

（作品データ）

　■監督・脚本・原作

足立紳

　■出演

豪太　・・・　濱田岳
チカ　・・・　水川あさみ
アキ　・・・　新津ちせ

（その他のキャスト）
　大久保佳代子　　坂田聡　　宇野祥平　　黒田大輔　　冨手麻妙　　河合優実　　夏帆　　ふせえり　　光石研

　■コピー

この夫婦史上最高　最笑

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