僕の好きな女の子

　これは、芸人で芥川賞作家の又吉直樹による恋愛エッセイを、演劇ユニット玉田企画の主宰者でもある玉田真也が映画化した恋愛映画。

　脚本家の加藤は、写真家のミホの飲み友達。呼び出されれば飲んで騒いでバカ笑いをするが、加藤はどうしても「好き」と言う気持ちを伝えられずにいた。
　友人たちからはそんな関係も全く理解されずにいるが、加藤は、一歩踏み出してこの関係が壊れてしまう位なら今のままの関係で十分幸せだった。
　しかし、ある日ミホから交際している彼氏を紹介する、と言われて……

　これは、劇中で加藤が言う「半径２メートルの小さな世界」どころか、もっと小さな話であるかもしれません。
　そして、これもまた又吉直樹の小説の主人公らしく、自分が傷つくことを恐れてうじうじとしている癖に、プライドだけは高く、口ばかり達者な面倒な男。彼女に飲み物を買ったり、土産を用意しながらも、何故かそれを渡せない。「好き」を伝える所か、彼女に何かする事にさえ踏み込めない加藤には苛々させられ、「僕が好きな女の子は僕を好きにならない」と恨み言を言う前に行動しろ、と思ってしまいます――だけど、実はこの加藤の気持ちも、口に出せない思いも、判り過ぎるほど判ってしまうのが我ながら痛い……
　でも、これは正に、そんな男の一歩を踏み出せない気持ちを描く映画なのです。

　そんな情けない男、加藤を説得力十分で演じる渡辺大知の上手さったらないし、コロコロとよく笑うミホを演じた奈緒もまたいい。
　ふたりの距離感を巧みに演出した玉田真也監督も上手い。長回しで見せる会話劇の面白さは、やはり舞台演出家ならでは、と言う所でしょうか。ただ、製作が吉本興業だけに、出演者に芸人が多く、台詞が時にコントじみているのは気になりましたが……

　不満だったのは最後のオチ。あれは、あんまりじゃないか、と言うのが正直な感想です。
　この物語――加藤とミホの関係――が、脚本家である加藤の妄想だとしたら、それまで“情けない加藤”の気持ちを理解し、感情移入をしまくっていた男の気持ちの持って行きようがないではないですか。
　

　（２０２０年　９月　５日　シネマカリテにて）

（作品データ）

　■監督・脚本

玉田真也

　■出演

加藤優介　・・・　渡辺大知

佐伯美帆　・・・　奈緒

（その他のキャスト）
　徳永えり　　山本浩司　　仲野太賀　　山科圭太　　野田慈伸　　前原瑞樹　　萩原みのり　　後藤淳平　　福徳秀介
　たくませいこ　　児玉智洋　　秋乃ゆに　　濱津隆之　　東龍之介　　柳英里紗　　長井短　　朝倉あき

　■コピー

今突然、「好きだ」と伝えたら、
キミはなんて言うだろう。

　■Ｌｉｎｋ

https://bokusuki.official-movie.com/

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