糸

　これは、中島みゆきの同題曲にインスパイアされた物語を、「楽園」の瀬々敬久監督が、菅田将暉＆小松菜奈Ｗ主演で映画化したもの。

　平成元年に生まれ、北海道で育った高橋漣と園田葵は１３歳の時に出会い、初めての恋をする。
　だが葵は、母が共に暮らす若い男からの家庭内暴力を受けていた。事情を知った漣は、駆け落ちを決行するも、１３歳の２人には行く当てもなく、翌朝には警察に保護されてしまう。
　それから８年。地元のチーズ工房で働く漣は、友人の結婚式に訪れた東京で、葵との再会を果たすが……

　瀬々敬久監督映画には、あまりいい印象がないのですが……この映画もその予感が的中。
　確かに、お金をかけているのは判ります。キャストは豪華ですし、海外ロケを敢行し、撮影にも時間をかけています。主人公２人の出会いと再会のドラマを、平成史と重ねて描く、と言う狙いも判りますが、平成の出来事が、いずれも表面的にしか取り上げられておらず、物語の中で活かされていないのは勿体ない。
　物語は基本的にメロドラマ仕立て――だからと言って、ＤＶにネグレクト、破産に災害に難病、そして親友の裏切りと、主人公とその周辺の人物を次々と不幸に落とし込むのはいささかやり過ぎではないでしょうか？「糸」の歌詞にもある交差する人生が織り成すものが誰かを温める所か、主人公２人に関わる人々が次々に不幸の底に突き落とされる物語には疑問を覚えてしまいましたし、映画中の台詞の「普通の生活がしたいだけなんだ」と言うボヤキには同情しかありません――映画は、主人公２人に降りかかる不幸の連鎖を背景に、すれ違いを描くものになります。
　しかし、その物語は駆け足で、まるでダイジェストのよう。深いドラマは描かれず、背景描写もおざなり……それでも観客を泣かせ、感動させてしまうのは、演技力のある主役級俳優をずらりと揃えた豪華キャストによる、説得力のある芝居があるから。こうした俳優陣の頑張りと、海外ロケを含む“現場”の説得力が、本作を辛うじて映画たらしめている、と言う感じです。

　また、これは本作の問題ではないのですが、今年公開された映画、「弥生、三月　君を愛した３０年」と似通った部分があり、既視感を覚えてしまったりもしました。
　
　また、「糸」の曲も、ドラマの中で有効に使われているとは思えませんでした――友人夫婦に印象的に使われた中島みゆきの「ファイト」は、上手く活かされていたのですが――最後の再会のシーンは、歌のサビとクライマックスが合っておらず、勿体ない限り。
　しかも、そのクライマックスと来たら、映画のこれまでのシーンを執拗にプレイバックすると言う、くどい演出でむしろ白けてしまい、再会の感動を削いでしまっている有様。
　これだけの豪華なキャストと、お金をかけてこれでは……色々な意味で無駄遣いな感じがする映画でした。


ＰＳ
　本作の劇場予告編だが、これが惜しみないくらい映画を最初っから最後まで見せてしまっています――物語の起承転結も押さえられ、ラストシーンまで入っています。
　実際、これだけ観れば充分、と言う出来で、予告編でここまで見せてしまうのか、と呆れてしまうものでした。
　

　（２０２０年　８月２６日　ＴＯＨＯシネマズ海老名にて）

（作品データ）

　■監督

瀬々敬久

　■出演

高橋漣　・・・　菅田将暉
園田葵　・・・　小松菜奈

（その他のキャスト）
　山本美月　　高杉真宙　　馬場ふみか　　倍賞美津子　　永島敏行　　竹原ピストル　　松重豊　　田中美佐子　　山口紗弥加
　成田凌　　斎藤工　　榮倉奈々　　石崎ひゅーい　　片寄涼太　　二階堂ふみ

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めぐり逢う、ふたつの物語。

　■Ｌｉｎｋ

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