劇場

　これは、「火花」で芥川賞を受賞したお笑い芸人の又吉直樹による恋愛小説を、行定勲監督が映画化したもの。
　出演は山�ｱ賢人と松岡茉優で、当初は拡大公開（全国２８０スクリーンを予定）される予定でしたが、新型コロナウィルス感染拡大により公開中止になり、アマゾン・プライムでのネット公開に切り替え。日本アカデミー賞を始めとする映画賞の対象作品資格を得るためにミニシアター中心に全国２０館での劇場公開となりました。

　中学からの友人と立ち上げた劇団「おろか」で、永田は脚本を担当している。だが、高い理想とオリジナリティを貫く、永田の前衛的な作風は酷評され続け、理想と現実との間で悩み、孤独を抱えていた。
　そんなある日、永田は沙希と出会った。沙希は女優になる夢を抱き上京し、服飾の大学に通っていた。
　やがて、永田は沙希の部屋に転がり込み、二人は一緒に暮らし始める。やがて、沙希は大学にも行かなくなり、永田を支えるようになる。永田はそんな沙希に甘える一方で、演劇では一向に結果を出せずにいた……

　これは、何者にもなれない若者が足掻く辛口の青春映画であると共に、天使のような女性をダメ男が堕落させて行くと言う（実はよくあるタイプの）やるせない恋愛映画。
　女性に依存しながらも、理不尽な怒りを彼女に抱え、幼児的万能感を持ちつつそれが傷つく事を恐れて思い切りが悪いと言う、見ているだけで苛々させられ、腹立たしくさえ感じるダメ男っぷりは、又吉直樹から見た“ダメな自分”なのでしょう……それをここまで客観的に描いて見せ、もの作りをする人の共感を得るまで持って行く辺り、確かに又吉直樹は才能のある作家なのだと思います。
　また、又吉直樹の前作「火花」にも似た感じの話ではあるのですが、又吉の本業である芸人を主人公にした「火花」に対し、本作は同じ舞台芸術でありながら、舞台劇の劇作家が主役。そこで、演劇と言うもの作りや取り組み姿勢の描写からは一歩引き、恋愛映画にする辺りも、又吉の誠実さと言うか器用さを感じる部分……もっとも、商業出版した小説２作目でそこまで気が回る、と言うのはちょっと出来過ぎのようにも思いますが。
　
　紗希を演じた松岡茉優は文句なしの演技。ただ、山�ｱ賢人は頑張ってはいるものの、クズ男を演じるにはまだ格好つけ過ぎてる感じです……この辺り、菅田将暉や綾野剛は巧いのですが。

　映画としては、いささか古く新鮮味のないものだけに、物語を全て“シモキタ”だけで出来ているような、小さく閉じた世界とし、永田の視界そのまま、と言う感じにした工夫がいい。それが劇場に収斂する最後は、ややあざとい感じがするものの見事と言っていいでしょう。
　ただ、ダメ男にとっての天使のような女が、“天使”でいられる時間はそう長くはない、と言う事を示す、その時間経過を上手く描けていないのは気になった所です。
　

　（２０２０年　７月１７日　シネマジャック＆ベティにて）

（作品データ）

　■監督

行定勲

　■出演

永田　・・・　山崎賢人
沙希　・・・　松岡茉優

（その他のキャスト）
　寛一郎　　伊藤沙莉　　上川周作　　大友律　　井口理　　三浦誠己　　浅香航大

　■コピー

一番会いたい人に会いに行く
こんな当たり前のことがなんでできなかったんだろう

　■Ｌｉｎｋ

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