これは、ボルダリングに熱中する女子高生を描いた珈琲原作の人気コミックを「ホームレス中学生」、「ロボコン」の古厩智之監督映画化した青春ドラマ。
　主演は元モーニング娘。の工藤遥。共演は、最近、映画出演が相次ぐ伊藤健太郎。

　クライミング部の小寺さんは、いつもボルダリングのことばかり考えている。
　ひたむきに壁にとりつき、のぼる小寺さんが気になる卓球部所属の同級生・近藤は、次第にそんな小寺さんから目が離せなくなっていく。そして、いつしか小寺さんに感化され、卓球に真剣に取り組むようになるのだった。
　そして、小寺さんを見つめているのは、近藤だけではなかった……

　この映画、特筆すべきは、小寺さん役の工藤遥。
　元々運動神経はよく、出演した東映特撮ものではかなりのアクションを見せているとは言うのですが、映画出演が決まるまでボルダリングに取り組んだ事がない、と言うのが信じられない程、様になっています――実際、１シーン（校舎の壁を３階まで一気に上るシーンでしょう）以外は、全て工藤遥本人がのぼっている、と言うのだから大したものです。
　また、ボルダリング以外でも、校舎のベランダから教室内に戻るのにひょいっと窓から飛び込んで来るなど、身体能力の高さを随所で見せています。

　物語のテーマは「見る」事……ひたむきに、真摯に、小寺さんがのぼる――ボルダリングには本来、敵がいません。壁と自分だけ。自分に力がなかったら、重力に負けて落ちる、それだけの競技なのです。相手は自分、だから真摯さを問われるし、そんな小寺さんがのぼる姿は人の心を動かすのです。

　映画は、進路希望を白紙提出した４人が、小寺さんによって動機づけられ、自分の人生を歩き始める様を描きます。その点では真っ当な青春映画だし、最初っから最後までブレない小寺さんを「見る」映画としては、一種のアイドル映画でもあります。
　「見る」のは愛情であるし、その想いが高まれば、今度は「見て」欲しくなるのが恋愛と言うもの。そして、「支える」のに「見る」必要ない、と言うラストカットには唸らされました――これは、思いの外、哲学的な物語であったのだ、と……
　

　（２０２０年　７月　５日　Ｔ−ＪＯＹ横浜にて）

（作品データ）

　■監督

古厩智之

　■出演

小寺さん　・・・　工藤遥

近藤　・・・　伊藤健太郎

（その他のキャスト）
　鈴木仁　　吉川愛　　小野花梨

　■コピー

乗り越える壁は人それぞれ。一生懸命も、悪くないかも。

　■Ｌｉｎｋ

http://www.koterasan.jp/

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