アンチグラビティ

　これは、「Ｔ−３４　レジェンド・オブ・ウォー」のプロデューサー陣が放つロシアのSFアクション映画。
　監督は、これが劇場長編映画は初となるニキータ・アルグノフ。

　男が目を覚ますと、そこには異様な世界が広がっていた。あらゆるものが、重力を無視して浮遊しているのだ。男の記憶はなく、呆然としていると、突然黒い怪物が襲い掛かって来る。間一髪で助けられた男は、ヤンという男が率いる彼らの住処に案内され、ここは昏睡状態の人間たちが暮らす脳内世界だと知らされる。男と同じく、彼らもまた現実では昏睡状態だという。この世界の時間の流れは現実世界の１００倍遅く、昏睡状態から目覚めるまで抜け出せない。さらに、“死に神（リーパー）”と呼ばれる怪物が彼らを襲う。この世界にいる者はいつか目覚める事を信じて、永遠に近い時間をリーパーと戦い続けなければならなかった。そんな中、ヤンは、どこかにリーパーのいない島があると信じていた。ヤンは、男がその場所を知っているというが……。

　本作が「インセプション」の影響下にある事は否定出来ないでしょう。だが、誰かの夢の中に入る、と言う「インセプション」に対し、昏睡状態に陥った人が夢や記憶を「共有」している、と言う世界観は独特であり、それを映像としたセンスは特筆に値します。
　個人の記憶故に、その人が見て覚えている範囲が世界、と言う断片的な世界が、空間も重力も野放図に噛み合っている……と言う世界のビジュアルは、カットによっては、その１カットが１枚のシュールレアリスム絵画として成立しそうな斬新かつ見事なもので、これには圧倒されます。

　説明抜きにいきなり「状況」から入って、観客をその独自の世界に放り込み、中盤以降で、漸く背景説明に入ると言う構成も挑戦的で、ロシア映画の勢いを感じます。
　ただ、肝心の物語は思わせぶりな素振りを見せつつも遅々として進まず、影響を受けた作品群へのアンサーとなるものも見せられず、いささか竜頭蛇尾な印象に終わったのが残念でした。
　

　（２０２０年　７月　３日　イオンシネマ座間にて）

（作品データ）

　■監督・脚本

ニキータ・アルグノフ　

　■出演

　ヴィクター　・・・　ライナル・ムハメトフ
　
　ヤン　・・・　コンスタンチン・ラヴロネンコ

（その他のキャスト）
　アントン・パンプーシュニー　　ルボフ・アクショノーヴァ　　ミロシュ・ビコヴィッチ

　■コピー

戦場は、頭の中。

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