悪の偶像

　これは、「ハン・ゴンジュ １７歳の涙」のイ・スジン監督によるサスペンス。
　「シュリ」のハン・ソッキュと「オアシス」のソル・ギョングのＷ主演で、物語の鍵を握る異色のヒロインを、「ハン・ゴンジュ １７歳の涙」の主演女優チョン・ウヒが演じる。

　市議会議員のク・ミョンフェは清廉なイメージで人気が高く、次の知事選への出馬を目論んでいた。
　そんなミョンフェが視察旅行から戻ると、息子ヨハンが飲酒運転した上に人を轢いてしまったいた。しかも、ヨハンは事故を隠蔽する為、死体を持ち帰っていた。ミョンフェは、苦悩の末に、死体遺棄の罪を免れるため遺体を事故現場に戻し、ひき逃げ犯としてヨハンを自首させることに。
　だが、ミョンフェは、事故の後も被害者の男性は息があり、ミョンフェの妻が隠蔽の為、殺していた事を知る。しかも、事故現場に居合わせ、その子細を知っているであろう被害者の妻は、事故直後から行方をくらませていた。
　これが明るみに出れば、ミョンフェの政治生命も絶たれてしまう。ミョンフェは探偵を雇い、被害者の妻、リョナの捜索を開始するが……

　この映画、冒頭の交通事故を隠蔽のドタバタはもたつくものの、中盤以降、どんどん面白くなって行きます。
　それでも、抜群にいい、とは言えないのが、登場人物の行動の動機が不明、意図もよく判らない部分が散見されること。ミステリーとしては、落第とさえ言えそうな欠陥ですが、それは、この映画にとって大きな問題ではありません。
　この映画が描くのは様々な「悪」の形……野放図な行動、責任の放棄、盲目的な愛情……など、理由は様々ですが、人は如何にして良心を殺して悪へと走るのか。そんな様々な悪の形を登場人物のそれぞれに託して描いて行く中盤以降には見応えがあり、その中で、本来清廉な人物であるミョンフェもまた悪人となっていくのです。
　そして、そんな人々の中で、正に動物的な自己保全の為だけに、傷つけ、殺すと言う異物、リョナを配置する辺りも巧み――そんな彼女を中国の不法移民とするのは韓国らしい部分ではありますが。

　前述したように、本作はミステリーやサスペンス映画として観ると欠点が目立ち、クライムサスペンスをエンターテイメントに仕立てる事には定評のある韓国映画としては完成度は今ひとつではあるものの、「悪」に染まる人間の心を描いた人間ドラマとして、ハン・ソッキュとソル・ギョングの演技対決としても、見応えのある１本でした。
　

　（２０２０年　７月　１日　イオンシネマ座間にて）

（作品データ）

　■監督・脚本

イ・スジン

　■出演

ク・ションフェ　・・・　ハン・ソッキュ

ユ・ジュンシク　・・・　ソル・ギョング

リョナ　・・・　チョン・ウヒ

（その他のキャスト）
　チョ・ビョンギュ　　キム・ジョンマン

　■コピー

ある“ひき逃げ事件”が運命を狂わす――

　■Ｌｉｎｋ

https://akuno-guzo.com/

［戻る］