その手に触れるまで
ＬＥ　ＪＥＵＮＥ　ＡＨＭＥＤ

　これは、昨年のカンヌ国際映画祭で監督賞に輝いたダルデンヌ兄弟の社会派ドラマ。

　ベルギーに暮らす１３歳のアメッドは、ゲーム好きな普通の少年だったが、今は、イスラム教原理主義に夢中。小さな食品店の二階のイスラム礼拝所（モスク）の導師の元に熱心に通っている。放課後クラス（＝学童保育）のイネス先生とのさよならの握手を、「ムスリムは女性に触らない」と拒否し、飲酒する母親を「飲んだくれ」と罵倒するようになる。
　やがて、イネス先生を背教者と見なし、殺害を試みたアメッドは少年院へ送られることになるが……

　この映画、過激な宗教思想にとりつかれた少年の姿を描き、人を幸せにする為の宗教が、如何にして人の心と、生きて行く喜びを奪い取って行くのかを描いて行きます。
　ここでアメッドの人生を狂わせるのは、宗教なのですが、これは決して宗教に限らないでしょう。権威への追従と献身、そして、自分で感じ、考える事を放棄し、誰かの作り上げた理念に判断を委ねる時、誰もがこうなる可能性があるのです――自国や自民族に対する根拠のない優越感が生む排外主義や、その根底にある差別感情……そうしたものも同様の結果を生み得るのです。
　こうして人生の歯車を狂わされた少年が、再び人の手の温もりを知る事になる転機……それはあまりに残酷なものではあるのですけれど……

　映画は唐突に始まり、終わります。
　映画は、過激思想への傾倒の理由や、結末を描きません。謂わば、起承転結のうち、承と転だけを見せられているようなものなのです。
　その狙いは判らなくもありませんし、それがダルデンヌ兄弟ならではの部分ではあるのですけれど……せめて、アメッドの辿り着いた結末だけは観たかったのですが……
　

　（２０２０年　６月１４日　１０９シネマズ川崎にて）

（作品データ）

　■監督・脚本

ジャン＝ピエール・ダルデンヌ　リュック・ダルデンヌ

　■出演

アメッド　・・・　イディル・ベン・アディ

イネス先生　・・・　ミリエム・アケディウ

（その他のキャスト）
　オリヴィエ・ボノー　　ヴィクトリア・ブルック　　クレール・ボドソン　　オスマン・ムーメン

　■コピー

ぬくもりを知るとき、
隣に誰かがいることの尊さを知る。

　■Ｌｉｎｋ

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