これは、リュック・ベッソンが製作・監督・脚本を務め、女暗殺者の死闘を描いたアクション。
　主演のアナを演じるのは、ロシア出身のスーパーモデル、サッシャ・ルス。

　１９９０年、モスクワでスカウトされ、パリでモデルとしてデビューした大学生のアナは、たちまち売れっ子となる。やがて、モデル事務所の共同経営者のオレグと付き合い始めるが、武器商人というオレグの裏の顔を知ったアナは、隠し持っていた銃でオレグの頭を撃ち抜いた――アナの正体は、ソ連の諜報機関ＫＧＢの殺し屋だったのだ。
　物語はその３年前に戻る、そして――

　この映画は、リュック・ベッソンお得意の「戦うヒロイン」もの。そんなアナが戦うアクションシーンはリアル、と言うよりも、サッシャ・ルスの長い手足を活かし、エロ格好よく戦う様を見せるもので、リュック・ベッソンならではの様式美、と言う所。
　類似作としては、ジェニファー・ローレンスの「レッド・スパロー」がありますが、勿論、あんなに重くもなければリアルでもありません。その一方で、音楽に乗せてアナの“仕事”をテンポよく見せていくなど、娯楽性も高いものがあります。
　また、この映画、なかなか凝った構成となっています。
　ドンデン返しを仕組んだ映画が、クライマックスで物語をひっくり返し、ネタバレのように回想シーンを描いて行くのはよくありますが、この映画は、それを短いスパンで繰り返すのです。華やかなトップモデルがＫＧＢの殺し屋に、だが、彼女はかつて底辺暮らしのチンピラの情婦だった。やがて彼女はＣＩＡに拘束されて２重スパイとなって……と、アナの表と裏、どころではない様々な表情を、様々な側面から描いて行く――これはなかなか面白いものでした。

　その一方、リアリティが全体的に乏しく、１９９０年と言うのにコンピューターや監視カメラ群がハイテク過ぎて２１世紀の話としか思えないとか、クルマが妙に新しいとか、時代考証も怪しければ、ソ連崩壊前夜と言う時代設定が全く活かせていない物語にも物足りなさを感じますし、折角の凝った構成が、描こうとするテーマを語るのに活かされていないように思えるなど問題と言うか至らぬ部分が山積……まぁ、そんな所もリュック・ベッソンなのですが。

　アナを演じたサッシャ・ルスはこれが映画初主演ながらも健闘。やや癖のある美貌だが、確かに個性的だし、アクションも相当本人が頑張っている感じです。
　その脇を固めるのは、ルーク・ウィルソンにキリアン・マーフィー、それにヘレン・ミレンと実力派揃い。
　これだけのキャストを揃えれば、もっとじっくり見せるドラマも出来そうなのに、それでもヒロインの魅力と、エロスとアクションで押し切る娯楽作にしてしまうのもまたリュック・ベッソンならでは、でしょうか。
　

　（２０２０年　６月１１日　ＴＯＨＯシネマズららぽーと横浜にて）

（作品データ）

　■製作・監督・脚本

リュック・ベッソン

　■出演

アナ　・・・　サッシャ・ルス

アレックス　・・・　ルーク・エヴァンス

オルガ　・・・　ヘレン・ミレン

レニー・ミラー　・・・　キリアン・マーフィ

（その他のキャスト）
　アレクサンドル・ペトロフ　　レラ・アボヴァ　　エリック・ゴドン

　■コピー

殺って、魅せる。

　■Ｌｉｎｋ

http://anna-movie.com/

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