ルース・エドガー

　これは、１７歳の黒人少年の知られざる内面に迫り、人間の謎めいた本質とアメリカの現実を抉り出すヒューマンドラマ。

　１７歳の高校生ルース・エドガーは、学校を代表する文武両道の優等生。アフリカの戦火の国で生まれ、運転を覚える前に銃の撃ち方を覚えた彼は、ピーターとエイミーと言う白人夫婦の養子として育てられた。
　そんなルースが提出したレポートの内容に、彼が暴力的な過激思想に染まっているのではないかと黒人教師のウィルソンが疑念を抱く。しかも、密かに行われた所持品検査では、彼のロッカーから、違法な威力の花火が見つかった。
　ウィルソンは、ルースの養父母にそれを伝え、それをきっかけにルースを巡る人間関係の間に様々な軋轢が生じていく……

　これは、黒人やアジア人と言うマイノリティが、未だ白人社会であるアメリカ社会に受入れられ、成功するには、社会が期待するステレオタイプのキャラクターを演じなければならない――と言う社会派テーマを描きつつ、その一方で、様々な人種と立場の違いが生み出すディスコミニュケーションと、その結果生み出される、疑念や猜疑心が絡むドラマを、サスペンスフルに描くエンターテイメントとしての一面も見せます。

　ケルヴィン・ハリソン・Jr．演じるルースは、正に絵に描いたような品行方正な黒人青年。ただ、学校や養父母に見せる、そんな顔と別の一面を見せて行く後半には、サスペンスを超えてホラーに近いものを感じるほどです。
　そして、そんな彼と対峙するウィルソン先生を、オクタヴィア・スペンサーが熱演し、この対決を盛り上げて行きます。
　映画は、物事を判り易く描くのではなく、観客を当事者として巻き込み、そして真実は描かれる事がありません――信じるのか、疑うのか……観客の判断と想像力に委ねる結末も、意地が悪いと言うべきでしょうか？少なくとも勧善懲悪の明快な結末を望む人には物足りないものとは思います。

　ルースは、モンスターか、好青年なのか……ただ、その疑問は、観客にも跳ね返って来るのです。
　社会から期待される仮面を被る事、それは決して「悪い事」ではない……そうやって仮面を被り、期待された役割を演じて見せた事は、多かれ少なかれ誰にでもあるのではないでしょうか。
　

　（２０２０年　６月　８日　Ｋｉｎｏ　ｃｉｎｅｍａ　横浜みなとみらいにて）

（作品データ）

　■監督・脚本

ジュリアス・オナー

　■出演

ルース・エドガー　・・・　ケルヴィン・ハリソン・Ｊｒ．

ピーター・エドガー　・・・　ティム・ロス
エイミー・エドガー　・・・　ナオミ・ワッツ

ハリエット・ウィルソン　・・・　オクタヴィア・スペンサー

（その他のキャスト）
　ノーバート・レオ・ブッツ

　■コピー

あなたは人減の本性を見抜けるか――。

　■Ｌｉｎｋ

http://luce-edgar.com/

［戻る］