レ・ミゼラブル

　これは、昨年のカンヌ国際映画祭審査員賞を受賞した社会派ドラマ。また、米・アカデミー賞でも国際長編映画部門でノミネートされており、「パラサイト」がなければ、もっと注目されていただろう、と言われるほどインパクトのある映画です。
　監督は、独学で映画を学び、本作がデビュー作となるラジ・リ。

　「レ・ミゼラブル」の舞台となったパリ郊外のモンフェルメイユ。現在は移民が多く暮らし、犯罪多発地域と化している。そんな街の犯罪防止班に新たに加わった警官ステファンは、仲間とともにパトロールするうちに、複数のグループ同士が緊張関係にあることを察知する。
　そんなある日、少年が引き起こしたいざこざに、警官が暴力的な取り締まりを行った事が思わぬ騒動へと発展し、取り返しのつかない方向に進んで行く……

　映画はサッカーＷＣ決勝戦の日から始まり、今や他民族国家となったフランスがひとつとなってフランスの勝利を祝うのを写すのですが、その水面下では、貧富の差や、民族、宗教による人々の分断と対立により、不満や怒りが燻っていて、発火点寸前にあると言う現実を描いて行きます。
　ラジ・リ監督は、実際にアフリカ系移民で貧民街で育ち、映画の中でドローンを飛ばして警察の強権的な取り締まりを撮影した少年同様、実際に、そうした場面を撮影していたのだと言います。
　（尚、映画でドローンを飛ばしていた少年は監督の息子だそうです）
　映画は、そんな監督の実体験に基づき、実際のエピソードを元にして暴動が生まれるきっかけから、引き返し不能点に至る直前までを描いて行きます。

　映画は最後に向き合う警官と少年を描き、彼らの決断までは描きません。
　その決断は、この映画を観る人、ひとりひとりに突きつけられているのでしょう――信じるのか、殺すのか。殺せば、その先には、破壊と混沌が待っています。そんな、引き返し不能点に現代社会はあり、私たちひとりひとりが、何時、その決断を迫られてもおかしくないのですから……
　

　（２０２０年　３月　７日　シネマジャック＆ベティにて）

（作品データ）

　■監督・脚本

ラジ・リ　

　■出演

　ステファン　・・・　ダミアン・ボナール

（その他のキャスト）
　アレクシス・マネンティ　　ジェブリル・ゾンガ　　ジャンヌ・バリバール　　イッサ・ペリカ

　■コピー

“悲劇<レ・ミゼラブル>”は終わらない。
この街は今も燃えている。　

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