Ｒｅｄ

　これは、島本理生が家庭を持つ女性の官能と苦悩を綴った同題小説を「幼な子われらに生まれ」の三島有紀子監督が映画化したもの。
　ヒロインの塔子を演じるのは夏帆。塔子の昔の恋人・鞍田を妻夫木聡が演じる他、柄本佑、間宮祥太朗らが出演しています。
　
　誰もが羨む結婚をし、かわいい娘に恵まれ、高級住宅地の豪邸で専業主婦として暮らす塔子。そんな恵まれた塔子の日常は、ある日、夫に連れられて参加したパーティーで、かつての恋人・鞍田と再会した事をきっかけに、徐々に変わって行く――今の暮らしは自分の望んだものだったのか……そんな疑問から、鞍田の勤める建築事務所で以前のように働き始めた塔子は、ひとりの大人の女性として社会に向き合うと共に、鞍田との関係を深めて……

　この映画、不倫映画と言われてはいるものの、描いているのは、人を愛すると言う事。そして、テーマは“女の幸せ”でしょうか。
　様々な愛の形が交錯する中で、女の人生――家庭の中で、妻として夫を支えて生きるのか、社会に向き合い、私個人の才能を活かして生きるのか――を問う物語には見応えがあります。
　ただ、性愛描写が強く押し出され、そんな“女の人生”についての葛藤が覆い隠してしまっているように見えてしまうのは気になりました。
　また、時間軸を前後させる構成はちょっと凝り過ぎだったように思いました。この話だったら、時間経過通りに見せていった方がよかったのではないでしょうか。

　主演の夏帆は、これはもう他に適役は思い浮かばない程のハマリ役で、熱の入った演技を見せます。
　濡れ場も、ちゃんと全部脱いでいて好感が持てます――ただし、Ｒ１５に収める為に、股間は勿論、バストトップも見せない絶妙のカメラアングルとなっていますが。

　マザコン気味の夫の、その我が儘っぷりも彼の愛情だと描かれる辺りはいささか切なく、それを裏切ってしまった、と悟った塔子の決意も痛々しいものがあります。そうした痛みを感じさせる辺りは大人の恋愛映画ならでは。
　そして、問題だと思ったのは、原作に対して映画は終盤の展開を大きく変えてしまった事――この終わり方では、女は愛故に「妻」である事は捨てられても、それ故に「母」である事からは逃れられない、と言う物語の、テーマまでも変えてしまったように思えるのですが……
　

　（２０２０年　２月２６日　１０９シネマズ川崎にて）

（作品データ）

　■監督・脚本

三島有紀子

　■出演

村主塔子　・・・　夏帆

鞍田秋彦　・・・　妻夫木聡

村主真　・・・　間宮祥太朗

（その他のキャスト）
　柄本佑　　片岡礼子　　酒向芳　　山本郁子　　浅野和之　　余貴美子

　■コピー

愛することが、生きることだった。

　■Ｌｉｎｋ

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