名もなき生涯

　これは、名匠、テレンス・マリック監督が、初めて実在の人物を描いて、カンヌ国際映画祭でエキュメニカル審査員賞を受賞したヒューマンドラマ。

　第二次世界大戦時のオーストリア。農夫フランツは、アルプスの山々に囲まれた美しい村で妻と３人の娘と共に暮らしていた。
　一度は、ドイツ軍に徴兵され、軍務に就いたフランツだったが、フランス戦終了と共に除隊し、村に戻った。だが、緒戦の勝利に沸く国内の空気が変わった事に危惧感を覚えたフランツは、ナチスの戦争に荷担する事を拒み、ヒトラーへの服従を頑なに拒むのだった。
　やがて、二度目の徴兵を拒否した事で収監され、裁判を待つフランツ。そして妻も村で裏切り者の妻として酷い仕打ちを受けて……

　この映画、最近のテレンス・マリック監督の映画としては珍しく、物語があります。勿論、それは実話をベースにしているからなのですが……もっとも、テレンス・マリックだけにドラマは希薄で、基本的には、ナチスに荷担する事を拒んだ男の運命を美しい映像と共に見せる、一種の映像詩であり、そこは期待通りのテレンス・マリック作品となっています。
　アルプスの美しい風景――美しい山々、匂い立つような緑に朝露の輝き……それを美しいクラッシック音楽の調べと共に描くのは正にテレンス・マリックの独壇場で、そこに渦巻く、不条理とも思える人間模様と暴力が、鮮やかな対比を見せるのにはやはり見応えがあります……と、解説するのも野暮で、映像詩なのですから、その映像を見て、感じるものが全てではあるのですが。

　フランツは本来、歴史に名を残すような人間ではありませんでした。それでも、そんな平凡な人の尊い決断こそが、この世界を善きものと出来る……そんなテーマは、２１世紀の現在に置いても重いものと思います。
　

　（２０２０年　２月２４日　ＴＯＨＯシネマズ川崎にて）

（作品データ）

　■監督・脚本

テレンス・マリック

　■出演

フランツ　・・・　アウグスト・ディール
フランチスカ　・・・　ヴァレリー・パフナー

（その他のキャスト）
　ブルーノ・ガンツ　　マティアス・スーナールツ　　マリア・シモン　　ミカエル・ニクヴィスト

　■コピー

自らの信念と家族への愛だけで
ナチスに立ち向った一人の男がいた

　■Ｌｉｎｋ

http://www.foxmovies-jp.com/namonaki-shogai/

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