フォードｖｓフェラーリ

　これは、１９６０年代、ル・マン２４時間耐久レースで絶対王者フェラーリ社に挑んだフォードの戦いを２人の男の姿を通して描く伝記ドラマ。
　監督は「ローガン」のジェームズ・マンゴールド。

　１９６０年代、これまでの堅実なクルマ作りからの脱却を目指すフォード社は、スポーツカーの開発と、レースへの参加を検討。その為に、当時、ル・マン２４時間耐久レースを連覇するなど活躍していたフェラーリ社の買収を試みるも失敗。独自にル・マンに挑む事になる。
　一方、アメリカ人として初めてル・マンを制したものの、心臓病でレーサーを引退したキャロル・シェルビーは、小さな自動車会社を営んでいた。そんな彼に、フォード社からあるオファーを持ちかけられる。
　それは、ル・マンで５連覇中の絶対王者、フェラーリに勝て、と言うものだった……

　これは、意地と誇りと名誉を賭けてクルマを駆る男たちのドラマ。
　映画は、「純粋」過ぎる為に社会からはじき出された人物として、ケン・マイルズを魅力的に描き、そんな彼と、シェルビーとのバディ・ムービーとなっています。
　また、フォード社長であるヘンリー・フォード�U世もまた“カー・ガイ”（自動車野郎）だった、と言う描写には胸が熱くなります。
　ただ、史実としては、ＧＴ４０をル・マンの勝利に導いたのはシェルビーの片腕とも言えるエンジニア、フィル・レミントンで、私としては彼の物語の方が面白そう、と思ってしまいますし、ローラによるＧＴ４０の開発と、１９６４年の惨敗（これでシェルビーにチームの立て直しを依頼する事になる）を省いた展開は、物足りなく思えました。
　また、フォードの官僚体質を副社長のレオ・ビーブひとりを悪役にして背負わせてしまうのも、いささか単純化が過ぎる感じ……まぁ、映画は映画。こうした脚色は仕方ない所なのかも知れませんが。

　その一方で、極力ＣＧを使わず（ル・マンの観客席など周囲を１９６０年代にするためにＣＧを使用とのこと）、実際にクルマを走らせて撮影した走行シーンの迫力は素晴らしい。
　カメラアングルにも臨場感があり、エンジンサウンドの車種ごとにしっかり変わっていてリアリティがあります。これは劇場の大スクリーンで観る価値ありでしょう。

　シェルビーを演じるのはマット・ディモン。マイルズを演じるのはクリスチャン・ベールで、相変わらずの見事な役作りです。
　あと、マイルズの妻、モリーを演じたカトリーナ・バルフも印象に残りました。

　物語としては古臭い作りなのですが、これは、この映画が描く物語が既に時代劇である事を意識しているのだろうと思います。
　クルマの運転技量を競い合う時代は過ぎ去りつつあり、ケン・マイルズに、
　「あのフォードが、フェラーリに勝つクルマを開発する？どれだけ時間が必要なんだ？２００年、いや３００年か？」
　と揶揄されたフォードが、それから５０年かそこらで乗用車生産から撤退する、と言うのですから……これは、そうした去りつつある自動車黄金時代への郷愁をも感じさせるドラマになっていると思います。
　

　（２０２０年　１月１２日　横浜ブルク１３にて）

（作品データ）

　■監督

ジェームズ・マンゴールド

　■出演

キャロル・シェルビー　・・・　マット・デイモン

ケン・マイルズ　　・・・　クリスチャン・ベール

モリー・マイルズ　・・・　カトリーナ・バルフ

（その他のキャスト）
　ジョン・バーンサル　　トレイシー・レッツ　　ジョシュ・ルーカス　　ノア・ジュプ　　レモ・ジローネ　　レイ・マッキノン

　■コピー

絶対王者に挑め！

　■Ｌｉｎｋ

http://www.foxmovies-jp.com/fordvsferrari/

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