男はつらいよ ５０
お帰り、寅さん

　これは、国民的人気を誇る山田洋次監督による「男はつらいよ」シリーズの５０周年記念として製作された、２２年ぶりの新作で、第５０作目。
　もっとも、実はこれまで「男はつらいよ」は、ＴＶなどで断片的に観た事があるだけで映画館では観た事がありません――私が映画を本格的に観始めたのは１９９８年以降で、「男はつらいよ」は、その前にシリーズが中断してしまっているので……

　サラリーマンを辞め、小説家になった満男は、妻の七回忌の為に、久々に柴又の実家に戻った。
　「くるまや」はカフェになり、町の様子も大分変わったけれど、集まれば相変わらず賑やかだ。だが、そこには、おじさん――寅次郎の姿がない。
　そんな中で、処女作の出版記念のサイン会を行うことになった満男は、初恋の人で一度は結婚の約束までした女性・泉と出会って……

　「男はつらいよ」は、寅さんを演じた渥美清の死去により、第４９作目の撮影準備中にシリーズ中断、その後、既存の映像をつなぎ合わせて４９作目が公開されたものの、シリーズ終盤の中軸となっていた、満男と泉のロマンスは結局、最後まで描かれる事はありませんでした。
　この新作は、その満男と泉のロマンスの結末を描き、一つの区切りをつけるものとなります。

　そうして描かれた内容は、正に「男はつらいよ」の世界そのもの。
　確かに、「男はつらいよ」とは、寅さんが高嶺の華であるマドンナに憧れ、恋をして、そしてフラれる（或いは逃げてしまう）のが毎度のパターン。
　それを踏襲するように、本作では満男の恋の結末として、妻との死別と、初恋の人との別れを描くのです。これこそ”失恋映画”である「男はつらいよ」の世界であり、満男が新たな“寅さん”となる事を予感させる内容となっています。
　
　しかし、「寅さん」映画を、映画館で観てあらためて思ったのは、やはり、私はこの「寅さん」がどうにも苦手、と言うこと。
　山田洋二監督お気に入りのメロンのエピソードも、面白く感じる事は出来ませんでした。
　
　満男を始め、「男はつらいよ」の山田組俳優は、その息もピタリ、正に“家族”となっており、２２年後の柴又の描写も申し分ありません。
　これで、満男を新たな“寅さん”にすれば、まだまだ映画が撮れそうな感じですが……さて、どうなるでしょうか。

　

　（２０２０年　１月　１日　ムービルにて）

（作品データ）

　■監督・脚本

山田洋次

　■出演

車寅次郎　・・・　渥美清

諏訪さくら　・・・　倍賞千恵子

諏訪満男　・・・　吉岡秀隆

イズミ・ブルーナ（及川泉）　・・・　後藤久美子

（その他のキャスト）
　前田吟　　夏木マリ　　浅丘ルリ子　　池脇千鶴　　桜田ひより　　美保純　　佐藤蛾次郎　　北山雅康
　笹野高史　　出川哲朗　　カンニング竹山　　濱田マリ　　林家たま平　　橋爪功　　及川一男　　小林稔侍
　立川志らく　　松野太紀　　桑田佳祐

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