これは、こうの史代のコミック「この世界の片隅に」を、片渕須直監督がアニメーション映画化したもので、２０１６年の公開版に約３０分の新規シーンを追加した別バージョン。主人公すずの夫、修作の想い人であったリンとの交流シーンなどが追加されました。

　広島の海苔漁師の家に育った浦野すず。
　昭和１９年２月。すずは呉に住む海軍文官、北條周作のもとへと嫁ぐ事になった。北條家の人々に暖かく迎えられたすずだが戦況は次第に悪化し、生活は次第に困窮していく。
　そんなある日、すずは迷い込んだ遊郭でリンと出会う。境遇は異なるが、呉で初めて出会った同世代の女性に心通わせていくすず。しかしその中で、すずは周作とリンとのつながりを感じ取るのだった……

　この映画ですが、これは「女」の話になっています。僅かなシーンの追加により、「戦争に翻弄されたひとりの少女」の話ではなく、全然違う印象を与える作品になっていました――でも、これが本来、こうの史代が描いた物語だったのです。
　それを映画化するに辺り、当初、２時間で収め、尚且つ、広い観客層に観て貰えるよう、リンのエピソードを切り、原作とは違うけれど、より普遍性を持たせた、と言うのが真実でしょう。
　そして、それは同時に、子供にも判る、いや、見せられるようにして広く支持される狙いもあったのではないか、と思います……今度の映画は、子供には判らない、と言うよりも子供に見せるのを躊躇するような内容を含んでいますから。（実際、片渕監督も本作については「子供に見せる映画ではない」と言ってます）
　そして、資金と時間を得た現在、こうの史代が描いた本来の物語に回帰した、と……片渕監督、凄い。これは天才の仕事だと思います。


ＰＳ
　片渕監督の拘りも相変わらずで、当時、呉に二式飛行艇の輸送機型の晴空があるのが判った、とわざわざ画面に出し、すずの義父が海軍工廠で、「誉」のエンジン試験を行うシーンでは、エンジンベンチの計器は実際に動いているし、エンジンブローするとちゃんとブースト計と回転計が下がって行きます……って、さすがにやり過ぎじゃないか、って呆れましたが……
　

　（２０１９年　１２月２０日　ＴＯＨＯシネマズららぽーと横浜にて）

（作品データ）

　■監督

片渕須直　

　■出演

　北条すず　・・・　のん
　
　北条周作　・・・　細谷佳正

　白木リン　・・・　岩井七世

（その他のキャスト）
　稲葉菜月　　尾身美詞　　小野大輔　　潘めぐみ　　牛山茂　　新谷真弓
　小山剛志　　津田真澄　　京田尚子　　佐々木望　　塩田朋子　　瀬田ひろ美
　たちばなことね　　世弥きくよ　　澁谷天外

　■コピー

　■Ｌｉｎｋ

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