ＣＬＩＭＡＸ
クライマックス

　これは、観る人を不快にさせ、怒らせる映画界の奇才、ギャスパー・ノエの新作。
　これまた２０１８年のカンヌで賛否両論となった問題作です。

　雪深い山中にある廃校を利用した合宿所で、アメリカ公演に向け劇団のダンサーが合宿してのリハーサルに取り組んでいる。
　合宿最終日、最後のリハーサルを終えた彼らは打ち上げのパーティーを始める。ダンスフロアがパーティ会場になり、この日は少し羽目をはずしてもおとがめなしの無礼講だ。だが、ダンサーたちの様子が少しずつおかしくなる。感情が異様に高ぶり、行動に歯止めがきかなくなって行く――誰かが飲み物にドラッグを入れたらしい。でも誰が、何のために？
　それが地獄の一夜の幕開けだった……

　「『カノン』を蔑み、
　　『アレックス』を嫌悪し、
　　『エンター・ザ・ボイド』を忌み嫌い、
　　『ＬＯＶＥ　３Ｄ』を罵った君たち。
　　今度は『ＣＬＩＭＡＸ』を試しに観てほしい。僕の新作だ」
　と言う、いささか挑戦的なギャスパー・ノエ監督のコメントがつけられた本作は、１９９６年に起きた実際の事件をモデルにしていると言いますが、実際、映画の中同様、関係者全員がドラッグで酩酊状態であり、その場で何が起きたのかは判然とせず、描かれている事は殆どが創作でしょう。
　話としてはシンプルで、冒頭のダンスで判るように、プロのダンスチームとして訓練され、統制もとれていた彼らが、ドラッグにより本能を剥き出しにされ、暴力とセックスの狂乱の渦に巻き込まれる、と言うもの。
　狂言回しさえおらず、観客はカメラと共にその狂乱の地獄絵図の中を右往左往するのみです。

　主演は、ソフィア・ブテラ――髪を金髪に染めていたせいでなかなか判らなかった――ですが、彼女以外は、ダンサーとしてはプロだけどいずれも演技初心者だとか。
　ただ、なにせ本能剥き出しのシーンばかりなので、それでも粗がでないのはさすが、と言うか、ある意味では、そのパフォーマンスでさえ、前衛舞踏の一種と言えるのかも知れません。
　また、ソフィア・ブテラ演じるセルヴァは、唯一バッド・トリップしており、混乱と恐怖、そして快楽と言う幾つもの感情に切り裂かれる難しい演技を要求されます……なるほど、その為の起用か、と納得です。

　人間の本能剥き出しにする、と言うギャスパー・ノエお得意の作風で、これは好き嫌いが分かれると思いますが、伝わって来るのはギャスパー・ノエは、本当に人間が好きなのだなぁ、と。
　まるで、少年が好きな女の子に嫌がらせをするように、観客に人間の本能――それが剥き出しになる暴力とセックス、そして妊娠を露骨に、露悪的に描くギャスパー・ノエですが、それは人を愛する気持ちの裏返し。人間嫌いの新海誠などとは正反対のその姿勢は意外なくらいピュアなものと思います。
　そして、類い希な映像センスで描かれる、混沌と狂乱、その対極にある死……これは劇場で体験しなければその価値は判らないでしょう。
　ギャスパー・ノエ。フランスの「国宝にして国辱」と言う評にも納得です。
　

　（年　月　日　にて）

（作品データ）

　■監督・脚本

ギャスパー・ノエ

　■出演

ソフィア・ブテラ　　ロマン・ギレルミク　　スエリア・ヤクーブ　　キディ・スマイル　　クロード・ガジャ・モール　　ジゼル・パーマー　　テイラー・カスル　　テア・カーラ・ショット

　■コピー

鮮烈に、墜ちる

　■Ｌｉｎｋ

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