閉鎖病棟
−それぞれの朝−

　これは、現役精神科医でもある帚木蓬生による第8回山本周五郎賞受賞作でもある同題小説を、「ＯＵＴ」の平山秀幸監督が映画化したもの。

　長野県のある精神科病院。
　梶木秀丸は、母親と嫁を殺め、死刑執行されるも死にきれず、ここに収容されている。そこには、幻聴に苦しむ元サラリーマンのチュウさんら様々な患者がいた。
　そこに、ＤＶで心を閉ざした女子高生の由紀が入院して来る。
　そんな病院である日、事件は起こった……

　この映画、導入部はなかなか期待させてくれました。
　原作者が精神科医と言う事もあって、病院内の描写はリアルで興味を引かれるものがありましたし、患者らの様子は、演者の力量の確かさもあって、こちらも真に迫るもの。
　もっとも、タイトルに「閉鎖病棟」とあるものの、患者の行動はかなり自由で、患者だけでの外出・外泊を認めるなど、これは「開放病棟」ではないか、と思ってしまいましたが……

　ただ、ある事件の描写がいけません。
　暴力性のある患者を、他の患者が接触出来る状況で野放しにしているのも変だし、入院患者が姿を消してしまったと言うのに、一夜明けても騒ぎにもなっていないと言うのもおかしい……こんな辺りに、物語の展開を主に考えた作為的な部分を感じ、ちょっと引いてしまいました。
　最後の裁判のシーンも、とにかく感動させよう、泣かせよう、と言う冗長で大仰な演出が続き、内容は感動的なのかも知れませんが、却って白けてしまいました。　
　前半の病棟の人間模様を丁寧に描いていたのに対し、後半は物語を語ろうとして、様々な部分が至らなくなっている印象でした。

　出演者は実力者揃い。その中でも特筆すべきは、事実上の主役、由紀役の小松菜奈で、感情の振り幅の大きな役を力演しています。特に、声を枯らして号泣するシーンは見事と言っていいでしょう。一方、惜しいのはチュウさん役の綾野剛で、相変わらずの役作りではあるものの……チュウさんってのは、もっと高齢で、冴えない中年男ではないか、と。むしろ、渋川清彦と役を入れ替えた方がよかったのでは、と思ってしまいました。
　

　（年　月　日　にて）

（作品データ）

　■監督・脚本

平山秀幸

　■出演

梶木秀丸　・・・　笑福亭鶴瓶

塚本中弥（チュウさん）　・・・　綾野剛

島崎由紀　・・・　小松菜奈

重宗　・・・　渋川清彦

（その他のキャスト）
　坂東龍汰　　平岩紙　　綾田俊樹　　森下能幸　　水澤紳吾　　駒木根隆介　　大窪人衛　　北村早樹子
　大方斐紗子　　村木仁　　片岡礼子　　山中崇　　根岸季衣　　ベンガル　　高橋和也　　木野花　　
　小林聡美

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