スペシャルアクターズ

　これは、「カメラを止めるな！」の上田慎一郎の劇場用長編映画第２弾。

　和人は売れない俳優。幼い頃のトラウマが原因で、緊張すると失神してしまう症状に悩んでいた。それが原因で仕事をも失い、困窮していた和人は、弟の宏樹から「割のいい仕事をやらないか」と誘われる。宏樹が所属する「スペシャル・アクターズ」と言う俳優事務所は、演劇のスキルを生かした何でも屋だった。
　そんな彼らが大きな仕事を引き受ける事になる。それは、カルト集団に買収されそうな旅館を守るため「洗脳された女将を救ってほしい」と言う依頼だった。
　和人と宏樹は事務所の仲間たちと共に信者のふりをして、教団の潜入調査を始めるが……

　この映画、出演者は何れも無名、公募した中から、オーディションで選ばれたほぼ無名の１５人を起用しています――上田慎一郎監督の映画なら、と名の通った俳優もオーディションに来たようですが、他の俳優とのギャップを嫌って落とされたようです。
　映画は、そんな彼らに宛て書きで脚本を書き、共に作り込んだものだそうで、未熟な彼らの個性を引き出しています。特に、主役となる和人役の大澤数人は実際にこの１０年で３度しか演じる仕事をした事がない、と言う何処までがリアルで何処から演技になっているのか定かでない有様。順撮りで撮られた、と言う事もあり、映画撮影しながら俳優として成長して行く様を見られるものとなっています。

　こうした製作経緯は、前作「カメラを止めるな！」と近いものがありますが、ひっかかるのは、上田監督にこれを撮らせたのは果たして正解だったのか？と言う事。
　上田監督は、３００万円の製作費で３１億円を稼ぎ出して一躍注目された映画クリエイターであり、そんな彼に期待されるのは、同じようなやり方で同じような低予算映画を撮る事ではなく、奇跡のヒットメーカーが思う存分にやりたい事をやった映画ではないでしょうか？
　実際、「カメラを止めるな！」と同じ劇場で公開された低予算映画、「ガチ星」で注目された江口カン監督の次作は、岡田准一主演の「ファブル」と言うメジャー作品でした。「カメラを止めるな！」のヒットからしたら、主演は木村拓哉でも役所広司でもいいくらい。大予算で、スタッフも有力者を揃え、上田監督をスター監督にすべく、環境を整える事が必要だったのではないかと思います。

　映画としては、無名の俳優らにより「俳優を見せる」のではなく、「演技を見せる」事に終始し、劇中劇と言う入れ子構造など、「カメラを止めるな！」との類似性を感じさせるものとなっています。そして、その中に家族愛を盛り込んでいるのも同様。
　ただ、「カメラを止めるな！」と比べても、ギャグは滑り気味だし、物語はご都合主義が気になりますが……それでも、二転三転する展開など、上田監督ならではのサービス精神が見られ、映画としては面白く見られました。
　それでも、最後のドンデン返しは不要だったんじゃないかなぁ……和人役の大澤数人の変化と成長もしっかり撮れていただけに、最後は、彼のトラウマの脱却とハッピーエンドを描いて欲しかったように思いました。
　

　（２０１９年　１０月１８日　横浜ブルク１３にて）

（作品データ）

　■監督・脚本

上田慎一郎

　■出演

大野和人　・・・　大澤数人

大野宏樹　・・・　河野宏紀

（その他のキャスト）
　富士たくや　　北浦愛　　上田耀介　　清瀬やえこ　　仁後亜由美　　淡梨　　三月達也　　櫻井麻七
　川口貴弘　　南久松真奈　　津上理奈　　 小川未祐　　原野拓巳　　広瀬圭祐　　宮島三郎　　山下一世

　■コピー

この映画、予測不能。

　■Ｌｉｎｋ

https://special-actors.jp/

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