帰れない二人

　これは、「罪の手触ざわり」、「山河ノスタルジア」のジャ・ジャンクー監督が、２１世紀の中国を背景に１７年に及ぶ男女の軌跡を描写したラブストーリー。
　主演は、ジャ・ジャンクー監督の妻であり、ジャ・ジャンクー映画のミューズ、チャオ・タオ。

　２００１年、山西省の都市・大同に暮らすチャオは、渡世人のビンの女として二人で暮らす未来を夢見ていた。だが、ある日チンピラに襲われたビンを助けようとして、チャオは銃を手にし、銃器の不法所持で逮捕されてしまう。
　それから５年後の２００６年。刑期を終えて出所したチャオは、音信不通となっているビンを探して長江を遡る。古都・奉節でピンを見つけたが、彼には新たな恋人がいた。二人は別れ、チャオは中国西方の都市・新疆ウイグル自地区のウルムチを目指す。
　そして２０１７年――

　原題の「江湖儿女」の江湖とは、字幕では渡世人とされており、日本で言う「任侠」に近い意味に当たるようです。
　これは、そんな古い世界に生きる女と男のすれ違いのメロドラマ。
　見た目はいかつく、腕っ節も強い男が、ちっぽけで弱い正体を露わにしていく中で、男への変わらぬ気持ち――愛情と言うよりも仁義を通す、女の姿。そんな、今となっては消えつつある“義理と人情”の世界を、三峡ダムから北京オリンピックまで、２１世紀の変貌して行く中国に重ね合わせて描く……それは正にジャ・ジャンクー監督ならではの世界で、彼の映画の集大成、と言う感があります。

　変わって行く中国と、変わらぬ価値観。それを詩情を以て静かに描き、魅力的で、ちょっと不条理なサイドストーリーの数々、ジャ・ジャンクー監督ならではの歌謡映画としての側面と、見応え多々はあるけれど、決して判り易い面白さのある娯楽映画ではありません。正直、これは観客を選ぶかな……
　

　（２０１９年　９月２９日　シネマジャック＆ベティにて）

（作品データ）

　■監督・脚本

ジャ・ジャンクー

　■出演

チャオ　・・・　チャオ・タオ

ビン　　・・・　リャオ・ファン

（その他のキャスト）
　ディアオ・イーナン　　フォン・シャオガン　　シュー・ジェン　　チャン・イーバイ　　キャスパー・リャン　　ドン・ズージェン

　■コピー

移ろいゆく景色、街、心。
　それでも、愛し続ける。

　■Ｌｉｎｋ

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