タロウのバカ

　これは、「セトウツミ」の大森立嗣が監督・脚本を務めた異色の青春ドラマ。

　母子家庭に生まれ、ネグレクトされた結果、戸籍がなければ名前もなく、学校に通ったことのない少年。彼には、エージとスギオという高校生の仲間がいる。彼らは少年に“タロウ”の名前をつけた。
　エージとスギオにはそれぞれ悩みも抱えていたが、自由奔放なタロウと過ごしている時は、解放されるのだった。
　そんな彼らが、偶然一丁の拳銃を手に入れる。彼らはそれを機に思わぬ形で現実に向き合う事になり……

　タロウを演じるのは、モデルとして活動しているＹＯＳＨＩで、これが俳優デビュー。元々の自由奔放な性格を前面に出し、演技ではなく、ＹＯＳＨＩと言う少年の素を、タロウに充てる、と言うやり方をしており、これは賛否分れるように思います。
　エージは菅田将暉、スギオは太賀が演じていますが、こちらはそろそろ高校生役が辛くなる年齢ではないでしょうか。

　これは青春映画の形を借りて、日本社会が抱える問題を描き出すもの。
　「存在のない子供たち」では、レバノンの難民の子供たちが住民登録をされておらず、社会サービスの枠外にあることを描いていましたが、実はこの日本においても数万人もの子供が様々な理由により戸籍登録されていないのだとか。
　この映画は、そんな戸籍のない子供のひとりであるタロウを中心に、社会に居場所のない若者たちの抱える痛みを描こうとするものなのです。

　映画冒頭、障害者収容施設を運営する半グレ集団の幹部、吉岡は、
　「社会の役に立たない者には生きている価値はない、殺すしかない」
　と、相模原大量殺人犯と同じような事を言います――そんな理屈からすれば、社会の枠外にいるタロウには価値はありません。そんな、現代日本において存在しない筈の者が手にした力……それは、他者にも自分にも向ける暴力となる、と言うテーマはいささか陳腐だけど、ＹＯＳＨＩの独特の存在感と、彼を支える菅田将暉に太賀と言う若手演技巧者により生きたドラマとなった感じです。

　この映画の中で、収まりが悪いと思えたのはスギオの恋のエピソード――告白したスギオに対し、女の性を見せた洋子を、童貞の高校生でしかないスギオは受け止められません。それは仕方ない、と言うのを無言の表情で演じた太賀は素晴らしく、正に痛みのあるシーンにはなっているのですが、この物語の中に落とし込むには、どうにも……

　そんなバランスの悪い構成、陳腐な脚本、演技以前のＹＯＳＨＩ、と言う様々な問題により、この映画にハマらない人も多いのでは、と思いますが、これはこれで現代の一面を切り取ったものであるのは確かだと思います。
　

　（年　月　日　にて）

（作品データ）

　■監督・脚本

大森立嗣

　■出演

タロウ　・・・　YOSHI
エージ　・・・　菅田将暉
スギオ　・・・　仲野太賀

吉岡　・・・　奥野瑛太

（その他のキャスト）
　植田紗々　　豊田エリー　　國村隼　　角谷藍子　　門矢勇生　　荒巻全紀　　ACE　　葵揚　　水澤紳吾　　池内万作
　伊達諒　　中島朋人　　大谷麻衣　　播田美保　　水上竜士　　小林千里　　原沢侑高　　伊藤佳範

　■コピー

３人が世界の全てだった。

　■Ｌｉｎｋ

http://www.taro-baka.jp/

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