記憶にございません！

　これは、三谷幸喜監督の新作コメディ。
　主演は「嘘八百」の中井貴一。三谷監督映画らしく、大変に豪華なキャストの映画となっています。

　演説中に石を投げられ記憶を失ってしまった総理大臣・黒田啓介。史上最低の支持率２．３％を叩き出した彼の記憶喪失は極秘事項で、知るのは秘書官３人のみ。
　黒田は、それまでの事どころか、家族の顔も思い出せないが、妻の聡子は不倫をしているようだし、息子の篤彦は非行に走っている気配。しかも、フリーライターの古郡にはゆすられ、そしてよりによってこの時期に、アメリカ大統領スーザン・セントジェームス・ナリカワが来日。政界のライバル、官邸スタッフ、マスコミ、家族、国民を巻き込みながら、黒田は捨て身で自らの夢と理想を取り戻そうとするのだが……

　この映画、ドタバタコメディか、と思いきや、確かにドタバタコメディで始まり、映画コピーの「この男に任せて大丈夫か？」通りの展開になるのだけど、中盤以降は、「こんな男に任せたい」となっています。そんな、前半ドタバタ、大騒ぎで始め、最後にいい話に持って行く辺りは三谷幸喜らしく手慣れたもの。最早職人芸と言うべきでしょう。
　贅沢を言えば、表面的な描写だけでなく、現実の政治世界をカリカチュアライズして盛り込むような描写を積極的に行えば、日本映画には珍しい政治風刺劇となったように思うのですが、そこまでには至らないのが勿体なく思えてしまいました。

　キャストの方は、中井貴一を始め、宛て書きで書かれた脚本と言う事もあって、俳優の魅力を引き出し、あるいは違った面を見せると言う采配も見事――特に、有働由美子とＲＯＬＬＹは、これはもうエンドロール観るまで判らなかったくらいだし、吉田羊の胸の谷間と言うのもあまり見ない気がします。あと、小池栄子は、あらためていい女だなぁ、と、しみじみ思いました。
　また、「空母いぶき」では総理役だった佐藤浩市が、政治ゴロとして総理を脅す、と言うのにも苦笑してしまった所です。

ＰＳ
　映画「空母いぶき」で“総理はお腹が弱い”と言う設定を付け加えさせた事で、佐藤浩市が「三流役者」とこき下ろされましたが、それ以上に総理大臣をコケにするこの映画、実は、映画完成後に安倍総理に見せています。そして、総理からは「楽しめた」とコメントを貰っています。こうなれば、安倍シンパと言えども総理が「楽しんだ」と言うものを批判は出来ません……三谷幸喜、さすがではありますが、そこまで出来るなら、本当にこれは「政治風刺劇」にして欲しかったなぁ、と思ってしまいました。

　

　（年　月　日　にて）

（作品データ）

　■監督・脚本

三谷幸喜

　■出演

黒田啓介　・・・　中井貴一

井坂秘書官　・・・　ディーン・フジオカ
番場秘書官　・・・　小池栄子

鶴丸官房長官　・・・　草刈正雄

黒田聡子　・・・　石田ゆり子
黒田篤彦　・・・　濱田龍臣

スーザン・セントジェームス・ナリカワ　・・・　木村佳乃

（その他のキャスト）
　佐藤浩市　　斉藤由貴　　吉田羊　　山口崇　　田中圭　　梶原善　　寺島進　　藤本隆宏　　迫田孝也
　ＲＯＬＬＹ　　後藤淳平　　宮澤エマ　　有働由美子　　飯尾和樹　　小林隆　　市川男女蔵　　小澤雄太
　近藤芳正　　阿南健治　　栗原英雄　　川平慈英

　■コピー

この男に任せて大丈夫か。

　■Ｌｉｎｋ

https://kiokunashi-movie.jp/

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