ロケットマン

　これは、あの「ボヘミアン・ラプソディ」を、ブライアン・シンガー監督降板後にまとめ上げたデクスター・フレッチャーが、グラミ−賞を５度獲得した天才ミュージシャン、エルトン・ジョンの半生を描く伝記映画。
　主演は、「キングスマン」のタロン・エガートン。共演は「リトル・ダンサー」のジェイミー・ベル。
　イギリスのミュージシャン（しかも同性愛者）の伝記映画と言う事で、柳の下の二匹目のドジョウ狙いが見え見えの企画……しかも、現在、第三弾としてカルチャークラブのボーイ・ジョージが準備されているとか……さすがに三匹目はないようが気がするのですが。

　両親から満足な愛情を注がれずに少年時代を過ごしたエルトン・ジョン。それでも彼は、人並外れた音楽の才能を認められ、ロックミュージシャンへの道を歩み始める。
　やがて、生涯の友となる作詞家、バーニー・トービンと出会った事で、大ヒットを重ねるようになるが……

　この映画、前作「ボヘミアン・ラプソディ」が音楽映画でありながら定番のミュージカル演出をしなかった（ブライアン・シンガーにミュージカル経験がなかったせいでもあり、アメリカではそれが非難されもした）のに対し、こちらは本格的なミュージカル仕立て。
　実際にエルトン・ジョンと生活を共にしたと言う主演タロン・エガートンの見事な役作りに加え、吹き替えなしで歌唱シーンをこなした歌唱力――「ザ・シング」で歌えるのは判っていましたが、まさかこれほどとは――により、ミュージカル・シーンは見応えがあります。特に前半の「土曜の夜は僕の生きがい」は正にロック・ミュージカルとして最高級のノリですし、名曲「ユアソング」誕生のエピソードには鳥肌が立ちました。　

　ただ、そうして好調な滑り出しを見せながら、成功した後の展開が凡庸なのがこの映画の問題。
　成功と共に酒とドラッグとセックスに溺れる……と言うのも（事実、その通りなので仕方ない部分もあるのですが）類型的だし、エルトン・ジョン自身が製作に加わっているせいもあって家族を余り悪く描けず、成功後に堕落した要因を、後に縁を切った代理人のジョン・リードを悪役にして、彼ひとりに負わせてしまうのもどうかと思いました。
　また、男性同士の濃厚な性愛描写には抵抗のある人もいるでしょう。（事実、それで公開停止になった国もあるそうですし）
　映画構成として、エルトン・ジョンの人生をたどるのを彼の依存症のグループ治療での思い出語りからの回想シーンとしてテンポよく描けるようにしていながら、それを活かせておらず、後半間延びしたような印象を与えるのも勿体ない。

　そして、「ボヘミアン・ラプソディ」ではラストにライブ・エイドの再現と言う最大の見せ場で盛り上げたのですから、この映画も、そんな見せ場を最後に用意して欲しかった――依存症を克服し、再びの飛躍を見せるエルトン・ジョンを、エンドロールで要約するのではなく、クライマックスとして欲しかった所です。
　映画としては、中盤以降に失速した感があり、正直、竜頭蛇尾の印象を受けました。
　

　（２０１９年　８月２３日　ＴＯＨＯシネマズ海老名にて）

（作品データ）

　■監督

デクスター・フレッチャー

　■出演

エルトン・ジョン　・・・　タロン・エガ−トン
　
バーニー・トービン　・・・　ジェイミー・ベル

（その他のキャスト）
　ブライス・ダラス・ハワード　　リチャード・マッデン　　ジェンマ・ジョーンズ

　■コピー

そのメロディは世界中を魔法にかける。

　■Ｌｉｎｋ

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