これは、矢口史靖監督によるミュージカル映画を題材としたコメディ。

　都内の一流企業で働くＯＬ・鈴木静香は、休日に遊びに行った遊園地で、怪しげな催眠術師、マーチン上田から術をかけられ、音楽を聞くと所構わず歌って踊り出してしまう体質になってしまう。職場でもプライベートでも騒動を起こして、世間体もお金も失った静香は、術を解いて貰う為、マーチン上田を追って日本中を駆け巡るが……

　ヒロインの静香を演じるのは三吉彩花。華やかな美貌と大柄で伸びやかな肢体は本場ハリウッド女優にも引けを取らず、ダンスシーンは見応えがありますし、彼女とバディを組む、やしろ優もコメディリリーフとして存在感を見せており、好印象。
　ただ、マーチン上田を演じた宝田明は声が出てないなぁ……確かに宝田明はかつてミュージカル俳優として一世風靡したのですが、既に８５歳で衰えが目立ちます。ここは、ちゃんと歌える俳優を起用して欲しかったように思いました。

　この映画、街中で人がいきなり歌って踊ると言うミュージカル映画の非現実的な部分を「音楽を聴くと歌って踊ってしまう」と言う催眠術による暗示をかけられてしまった
、と言う設定を持ち込んで、唄って踊る事の説明をつけました。
　そうして、この映画は日常生活の中で唄って踊った結果、大変な事になってしまうと言う描写を重ねて、ミュージカル演出をシチュエイションギャグにしてしまうのです。
　（静香は、それで職場にいられなくなり、レストランを破壊して、その賠償請求で破産してしまう）
　これは、ミュージカルを茶化すコメディであり、前半の唄って踊る度に状況が悪くなって行く様はブラックジョークとしか思えません――これは、ミュージカルの否定とも思える演出で、これには抵抗ある人もいるように思います。
　ただ、そうした日常の中で歌って踊ると言うミュージカルとしての見せ場は前半で終わり、中盤以降、ステージパフォーマンスとなってしまうのも物足りない……少なくとも最後のステージは、舞台を飛び出し、観客席をも巻き込んで華々しくやるべきではないでしょうか？

　しかし、ロードムービーの体を取る中盤以降印象が変わり、コメディ映画としては楽しめます。
　使用される楽曲は既存曲が多く、しかも、１９７０年代の曲が目立つのは、これは結構高年齢者を狙っているのか、と言う感じですし、結婚式でシュガーの「ウェディング・ベル」を歌う、と言うのにはさすがにウケました。

　ただ、最後のヒロインの決断も予定調和的で意外性がまるでなく、物語のまとめ方としては伏線を幾つも放り出した感があって、消化不良の感じがありました。
　ミュージカルとしては疑問もある映画ですが、確かに楽しく、笑えるところも多かっただけに、惜しいな、と言う印象です。

　（２０１９年　８月２１日　ＴＯＨＯシネマズ海老名にて）

（作品データ）

　■監督・脚本

矢口史靖

　■出演

鈴木静香　・・・　三吉彩花

斎藤千絵　・・・　やしろ優

マーチン上田　・・・　

（その他のキャスト）
　chay　　三浦貴大　　ムロツヨシ

　■コピー

カラダが勝手にミュージカル♪？

　■Ｌｉｎｋ

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