命みじかし、恋せよ乙女

　これは、樹木希林の世界デビュー作にして遺作となったドイツ映画。
　監督は、「フクシマ・モナムール」のドーリス・デリエ。

　カールは、酒に溺れて仕事を失い、妻は幼い娘を連れて出て行った。ミュンヘンで孤独に暮らすカールは、やがて“あやかし”を観るようになる。そんなカールの元に、亡き父と親交があったと語る日本人女性ユウが現れる。彼女は、墓参と生家を見に来たのだ、と言う。そんなユウに渋々付き合って故郷へ戻ったカールは、次第にユウに惹かれていく。そして、父の生家で不思議な体験をする事になる。
　そして、突如姿を消したユウを探して日本へ向かったカールは……
　
　この映画、アル中の中年男の再生を描くヒューマンドラマか、と思っていたら幽霊譚であったとは……
　ドーリス・デリエ監督は日本通で、日本文化への理解も深いのは伺えますし、タイトルから判るように黒澤明を始めとする日本映画世界への憧憬も明か。しかし、さすがに西洋文化と日本の幽霊のかみ合わせは今ひとつ、と言う印象で、どうにも話がちぐはぐ。
　日本人としては、日本が社会や人生に悩む人に救済をもたらす神秘の国である、と言う映画の描写には違和感を感じますし、また、カールが最後に生に執着し、この世に踏み止まる理由も弱いように感じました。

　これが遺作となる樹木希林の存在感はさすがで、彼女登場以降、物語がしゃんとする印象があるのは大したもの。
　「あなたは生きているんだから、幸せになんなきゃダメね」
　と言う達観したような台詞が心に残ります。

　あと、最後のカールの決断からしても、この映画のタイトルは、
　「生きる」
　とした方がよかったように思いました。
　

　（２０１９年　８月１９日　ＴＯＨＯシネマズシャンテにて）

（作品データ）

　■監督・脚本

ドーリス・デリエ

　■出演

カール　・・・　ゴロ・オイラー

ユウ　・・・　入月絢

ユウの祖母　・・・　樹木希林

（その他のキャスト）
　ハンネローレ・エルスナー　　エルマー・ウェッパー　　フェリックス・アイトナー　　フロリアーネ・ダニエル 　　ビルギット・ミニヒマイアー　　ゾフィー・ロガール

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