工作
黒金星（ブラック・ビーナス）と呼ばれた男

　これは、韓国の映画賞を総ナメした、事実に基づくスパイサスペンス。
　主演は「国際市場で逢いましょう」のファン・ジョンミン。

　１９９２年、北朝鮮の核開発の実態調査のため、軍の将校だったパク・ソギョンは工作員として北京に飛び、実業家に扮して北朝鮮の情報を収集せよと命じられる。それは、これまでの前任者が拉致、もしくは殺害されていると言う危険な任務だった。
　３年の工作活動の末、対外経済委員会の責任者であるリ所長に接触。信頼を勝ち得て、平壌で金正日と面会するまでになるが……　

　この、コードネーム“黒金星”のモデルとなったパク・チョソは実在の人物。韓国の工作員でありながら北朝鮮に便宜を図ったとして、２０１０年に韓国政府当局に逮捕されています。
　映画は、パク・チョソの体験談を元にしたフィクションで、軍の将校だったパクがどのように工作員となり、北朝鮮の核開発状況を探るためにスパイ活動を行うものの、韓国政府の意向により意図せぬ工作を行う事になる、と言う物語をリアルに描いています。
　スパイアクションとは言え、撃ち合いもなければ妖艶な美女も登場せず、「００７」のような話を期待すると裏切られますが、実話に基づく物語にはリアリティがありますし、それを映画化する為のディティールも見事。街並みの似ている中央アジアの都市で撮影して再現した平壌の街並みや、金正日との面会シーンには迫力があります。

　ひとつ失敗すれば命がない、北朝鮮相手の情報収集活動には手に汗握らさせられますが、それ以上にインパクトあったのは、終盤の展開。
　韓国政府与党が、次期大統領選で野党民主党の金大中を当選させない為、北朝鮮に軍事的挑発を行うよう依頼していた、と言う――選挙で勝つ為、支持率を上げる為に、敢えて不要な敵を作り、意図的に緊張を高める――韓国は、右派政権では北朝鮮を敵と見なし、左派政権となれば北と融和し、日本と対立する……現在の（そして、それは韓国だけではない）にも通じる、政治と権力の厭らしさを描いて見せるのはさすがと言うべきでしょう……むしろ、これを描きたかったが為に、実話ではなく、フィクションのドラマとしたのか、とも思えます。
　こうした，韓国の政治のあり方を問う内容……これは韓国国内での高い評価にも納得です。

　そして、この映画はそれだけではなく、そんな政府に振り回される対外工作の最前線で、主義主張の異なる男同士が、「このままではいけない」と言う事に危機感を共有して友情で結ばれると言う、感動のドラマでもあるのです。
　クライマックスで見せるふたりの決断と、その後の展開には胸が熱くなるでしょう。

　この映画、実録スパイ映画と言うサスペンスフルな内容に、政権への批判、そして、熱い男たちの友情ドラマをも盛り込んだ、いかにも韓国映画らしい内容盛り沢山の見応えのある映画でした。　
　

　（年　月　日　にて）

（作品データ）

　■監督

ユン・ジョンビン

　■出演

パク・ソギョン　・・・　ファン・ジョンミン

（その他のキャスト）
　イ・ソンミン　　チョ・ジヌン　　チュ・ジフン　　キ・ジュボン

　■コピー

誰も知らなかった南と北の裏の裏の裏

　■Ｌｉｎｋ

http://kosaku-movie.com/

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