これは、今年公開される「トールキン　旅のはじまり」のドメ・カルコスキ監督が、２０世紀のゲイカルチャーに革命を起こしたアーティスト、トム・オブ・フィンランドの生涯を映画化したもの。

　第二次大戦後のフィンランド。帰還兵のトウコ・ラークソネンは、同性愛者として悶々とした日々を過ごしていた。
　妹のカイヤから、広告の絵を描く仕事を紹介され、たちまち才能を発揮。昼は広告画家として働き、夜は施錠した自室で密かに、戦場で出会った男たちの逞しい姿を描き続けていた。
　同性愛が法律で禁じられていた当時、警察の取締りに怯えながら夜の公園で一夜の相手を探すか、自分でファンタジーを作り出す以外、トウコには欲望を発散する方法がなかったのだ……

　男性同性愛者のうち、所謂“ハード・ゲイ”と言う男性美を誇張したようなスタイル――イメージとしたら、芸人のレイザーラモンＨＧでしょう。レザーウェアにサングラス、肉体美を押し出し、しかもやたら陽気――それを、事実上作り出したのがトム・オブ・フィンランドことトウコなのです。

　戦中から戦後のフィンランドでは、同性愛は違法であり、知られれば処罰され、社会的生命を奪われる事にもなりかねない。そんな中で、取り締まりに当たる軍人や警察官にセックスアピールを感じてしまうと言うのですから、このトウコと言う人も倒錯しています。
　トウコは、そんな妄想を絵にするのですが、そんな作品、フィンランドでは公に出来る訳もない……でも、そんな男性美を賛美するイラストが、アメリカでフィットネス雑誌の表紙を飾った事から注目され、やがて同性愛者に対する社会的容認が進んでいたアメリカで、ゲイカルチャーを作り上げて行く……と言うのは一種のサクセスストーリーであり、カタルシスを覚える部分。

　惜しいのは、全体的に踏み込みが浅く感じられる事。ゲイカルチャーの先駆者としての自覚と責任、と言う所もそうだし、“運命の人”と思った遅い初恋の人を、こともあろうに兄に寝取られた妹カイヤ――これは最早ブラックジョークになっているのだけど――のその後なども気になってしまいました。
　

　（２０１９年　８月　９日　ヒューマントラストシネマ渋谷にて）

（作品データ）

　■監督

ドメ・カルコスキ

　■出演

トウコ・ラークソネン　・・・　ペッカ・ストラング

カイヤ・ラークソネン　・・・　ジェシカ・グラボウスキー

（その他のキャスト）
　ラウリ・ティルカネン　　セウマス・F・サージェント　　ニクラス・ホグナー

　■コピー

　■Ｌｉｎｋ

https://www.magichour.co.jp/tomoffinland/

［戻る］